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[コメント] アヒルと鴨のコインロッカー(2006/日)

フィンランド映画はお好きですか?
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







…と訊くと、たぶんここでは「うん」と肯定する人が大勢いるのだろう。

自分はアキ・カウリスマキの映画なぞ一本も観たことがない(これを書いた時点では)、と自慢にもならないことを広言する自称映画ファンなのだが、それはさておき。

モンティ・パイソンの歌で、『フィンランド』というのがある。

自分は谷山浩子の超訳で知ったんだからますます自慢できないのは棚に上げて、聴いてみるとひどい歌だ。ロシアの近くで、ヴェトナムや日本からは離れていて、キャンプしたり仔馬に乗ったりTVを観たりしている国で、ベルギーとともに観光客からは忘れ去られている…と、そんなふうにイギリス人たちは歌っている。日本におけるブータンなんてのはそれ以上に忘れ去られているし、下手をするとチベット以上に知らない人が多いことだろう。だからこういう映画は成り立ち得るのだろう。

でも、本物のブータン人がこれを観てどう感じるかは置いておいて、瑛太 という棒読み俳優の面目躍如たる作品だったようだ。思わず天下の大根、松田龍平の演技力を見直してしまったほどだ。でも、それは不快ではなく優しく感じられた。瑛太と濱田岳による前向きな姿勢の感じられる『真夜中のカーボーイ』という印象があるのだ。牛タンを食べるために仙台の大学に入ったような東京人と、遊びで犬猫を甚振り殺す連中が許せなくて鉄槌を下すべく作戦を練りに練り、実行に移したブータン人と。彼らは来世でも多分、幸福に生まれ変わるキップを手に入れることが出来たのだろう。

トリックはさほど驚くべきものではなく、やや強引に過ぎるとの感はあるが、むしろ国境を越えた友情と誇りの物語というカラーが強く、最後まで見通せば気にならない。自分を含めた殆どの観客はブータン人に会ったことはあっても、まず確実に意識などしていないからこそ、ブータン人の熱い思いはダイレクトに伝わってくる。

自分は30年ほど昔、仙台に住んでいたことがあるのだけれど、見ないうちに随分味気ない都会になったものだ、との印象を持った。市電が道を走り回り、市井の人々が訛りを隠すことがなかった頃、この街はもっとのどかで、犬が車道に出て行っても何とか逃げ切れるし、人々が見ない振りなぞしない人情に溢れていた。いつの間にか、こんな荒んだ都会になってしまったのだなぁ…。そんな意味で、これは懐旧の物語でもある。ピュアさを失ってしまった仙台っ子は、最早それを秘境のような国に求めざるを得なかったのか。それでも、犬のために命をかけられるという誇りを持つ若者のいる国は、幻の『フィンランド』のように「私(たち)の夢」の国なのである。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ロープブレーク[*] おーい粗茶[*]

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