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[コメント] 新聞記者(2019/日)

内閣情報調査室に属するエリート官僚が自分のやっている仕事に疑問を抱く、という反政府的な内容の本作だが、まだこの国には辛うじて表現の自由があるらしい。ネットの普及により半ばオワコン化しつつある新聞社の女性記者役は引き受けてくれる女優が国内にいなかったため、シム・ウンギョンに決まったと聞く。さてラスト、杉原は......
IN4MATION

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







話題になったラストの杉原の口の動きは僕には「ごめん」に見えた。

多田から出された好条件と、人生を棒に振るような告発を天秤に掛けて、杉原は現実に引き戻されてしまった。

子供も生まれたばかりだし家族も養っていかなければならない、希望の外務省に戻れる......。

自殺した神崎ほどの正義感を持ち合わせていなかったことに対する「ごめん」

吉岡の記事を誤報にしてしまう「ごめん」

政府に都合が悪い事実を隠蔽するためにデマを生産・流通させる「本作で描かれているような内閣情報調査室」が本当に存在するのだとしたら。

それなりに頑張って勉強してエリート官僚の道を進んだ先がこの部署だったとしたら。

まともな精神の持ち主なら自殺(と言うか覚悟を持った死)するものが現れても仕方ないだろう。

また内閣情報調査室でなくとも現実に森友公文書改ざん事件に手を染めさせられ自殺した近畿財務局職員のような方もいらっしゃる。

国民を守るための仕事が、いつの間にか国を守るための工作になっている。

そのことを追及していく女性記者役を日本人の女優が誰も引き受けてくれなかった、というのも正直恐ろしい。

フィクションには分類されるが、あの青薄暗い職場で黙々とデマを量産し続ける仕事をこなしていけるほど、おそらく僕の精神は強くはない。

さて、新設される大学院大学の真の目的が軍事転用可能な細菌兵器等の研究・製造だった、という悪魔の飽食を髣髴とさせる七三一部隊的なオチは少々風呂敷を広げ過ぎた感は否めない(国内にそのような施設を作って、研究内容を秘匿できるとはどうしても思えない)。

他にも観客を置いてけぼりにする冒頭の一連の流れや、劇中劇討論の音量の小ささなど、非常に残念な部分も多く手放しで誉められたものではないが、この御時勢に本作を製作・出演したスタッフらに敬意を表したい。

(評価:★5)

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