コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] NARC(2002/米=カナダ)

罪深きもの、人間。
ごう

見ているこっちも息苦しくなる序盤のカメラワーク、屋外を青基調に、それに対して家族のシーンを暖色にすることによって差別化し、その家族のシーンも徐々に暖色を消していくという編集など、とても初監督とは思えないほど見事な出来。何よりソダーバーグのように技巧が先走り気味になっていないのがいい。それはもちろん台本の出来の良さがあるからなのだけど。

序盤、嫁の顔に火をつけた下半身裸のジャンキーが嫁に向かって散々汚い言葉で罵った挙句に叫ぶ言葉「チクショウ!愛してるぞ!」。これが見終わるまでずっと引っかかっていた。ありがちと言えばありがちなのだけれど、そのありがちを明らかにもうこのシーン以降出番が無さそうなジャンキーに言わせる必要があったのか?と。しかし最後まで見て納得。むしろあんなキャラにまでしっかりテーマを背負わせている監督に脱帽したものだ。

人とはなんて業の深いものなのだろう。結局人は自分の見たいものしか見ないのだと。全て自分の為なんだ。愛だの正義だの都合のいい言葉などお題目を唱えてみても結局自分が気持ち良くなりたいためなんだ。上司は勿論オークも、ニックの嫁もみんなそれぞれがそれぞれのお題目を、時には嘘をついてまでもお題目を唱えて振舞う。そして自分のしたことには目をつぶる。ニックも彼の見たいものを求めて動くのだが彼だけは何も語らない。別れの時も、最後の時でさえも彼は何も話すことはない。だがそんな彼にも現実は何も救いの手は伸ばしてくれない。

凡百の心地よい映画がある。心地よい本がある。したり顔で説教するし説教される。それはそれで大事な時間なのだけれど、それだけじゃないだろう。それじゃ進まないだろう。ニックはこれから先どうするんだろう。オレはこの先どうするんだろう。そんなことを映画を見て考えた。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)プロキオン14[*] Ryu-Zen[*] m[*] uyo[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。