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[コメント] ダージリン急行(2007/米)

車両の断面を横移動しながら時空間を飛び越えて見せる、そのワンカット(?)内にナタリー・ポートマンビル・マーレイも、人食い虎をも登場させてしまう、といったアイデアを発想することには驚かされないが、しかし、これほど見事に画面で提示されてしまうと感動せずにはいられないじゃないか。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 このような、もしかしたら好事家に受けるだけかもしれない部分も多々あるのだが、私が本作で一番だと思うのは、実はこのコンパートメント断面シーンの直前の、アンジェリカ・ヒューストンのアップカットにストーンズがかかるカットだ。ヒューストンの後、兄弟3人それぞれにパンニングして静止し、もう一度ヒューストンに戻っくるカット。こゝはもう「時間」をフィルムへ定着させる演出の王道と云ってはばからない。まずもってヒューストンの顔作りの演出が素晴らしい。ためて、ためて登場させたキーとなる役者の使い方としても最高の部類だと思う。あと、父親の葬儀の日の回想シーンで自動車の修理工の役で登場するバーベット・シュローダーもその顔演技が感動的だ。父親との関係性を一瞬で表現し切ってしまう。

 さて、列車を舞台にした活劇として指摘しておきたいのは、本作には屋外へ置いたカメラから走る列車を撮ったカットが殆どない。少なくも記憶に残るようなこれみよがしなカットは一つもない。例えば、空撮かどうかを別として、風景の中を走る列車のロングショットや俯瞰ショットがない。また、疾走している際の回転する車輪を映したカット(かの『バルカン超特急』のような)もない。線路の中央を掘ってカメラを置き、その上を通り過ぎる列車を仰角で映すようなカットもない。このようなお定まりのカットがなくても、列車の局所的な描写、コンパートメントや通路やトイレや最後尾車両のデッキ部分等を上手く見せて実に豊かな画面を作っている。ラスト近くの兄弟三人が最後尾車両に飛び乗ろうとする高速度撮影のカットで、画面奥の平原に自転車の車輪回しをする少年が小さくず っと映っているの見て、私はどんな空撮、どんな俯瞰ショットよりもこのカットが本作に相応しい、また価値のあるショットであると感じた。

(評価:★4)

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