[コメント] 歩いても 歩いても(2007/日)
まずは、日本の古い家屋を舞台とした、屋内の光の回り具合の美しさを挙げるべきだと考える。冒頭は料理とその下ごしらえを丹念に見せて軽快なリズムを醸成する。原田芳雄と樹木希林の家自体も高台にあると思われるが(阿部寛、夏川結衣らが長い階段を上っていく)、墓地はさらに高い場所なのだろう。墓地から町と海が見渡せる。これらの高低の感覚を正確無比な仰角俯瞰で切り分けて提示する。そして、子供たちがサルスベリの花に触ろうとするショットの美しさ。
また、会話シーンのカッティングも非常に考えられたものだと思う。例えば、居間で、皆が会話するシーンを、庭側からのカメラ位置で撮影しているショットから、唐突に180度切り替えて、家屋の奥からのショットに転換するタイミング−原田芳雄が新聞をめくるショットでアクション繋ぎをする。あるいは、「ブルーライト・ヨコハマ」を聞く場面での、5人のバストショットを繋ぐカッティング。
ただし、黄蝶の扱いは、センチメンタル過ぎる作劇の性向でワザとらしいと感じる。最初に、冬になっても死ななかったモンシロチョウが翌年黄色くなる、という話をする場面ぐらいでとどめるべき、というのが私の感覚だ。
主要なキャラクターは、皆それぞれに、すごぶるよく描けていると思うけれど、やはり、樹木希林と夏川結衣が頭抜けて面白い。ある意味、この作品はこの女優二人の対決の映画だろう。もちろん、普通に考えると、樹木希林の方が、諧謔においても((林家三平の「すいません」のシーン!)、狡猾さにおいても(子供やめといた方がいいかもね、と夏川に云う)、圧勝しているように感じられるが、エピローグ(数年後の墓参の場面)で示されるのは、夏川の図太さが勝っていた結果なのだ。「ブルーライト・ヨコハマ」を聞いた後のシーン、阿部と夏川の二人だけの会話シーンで、隠れて聴く曲について聞かれた際に「ナイショ」と云う横顔の夏川のバストショットもまた忘れられない良いショットだ。
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