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[コメント] マイスモールランド(2022/日=仏)

四宮秀俊秋山恵二郎の作品という部分で惹きつけられ見る。これに関しては、とても満足感が得られた。屋内、例えば洗面所の場面(3回ある)の光の美しさ。学校の教室が最初に映るカットの俯瞰。あるいは、荒川の河川敷での夕暮れや、山間部の渓流のシーンなどなど。
ゑぎ

 長編映画デビュー作だというこの監督の仕事と思しき部分でも、新人らしからぬ実力を感じる。例えば、映画的な反復の魅力が多々ある。上にも書いたように洗面所のシーン。手のひらの赤いペイント(結婚式の風習と県境表示板への手形)。繰り返されるスプレーアート。または色のイメージ喚起(コンビニの制服の色への言及など)、あるいは水(水道水、川、雨)。石。オリーブの木、所作ならばフランス人のような、両頬にキスをする挨拶、両手を上げるお祈りの所作(ラストカットの顔を洗う所作も近い)などなど。ただし、これらは演出として豊かさを感じさせるが、ちょっと未整理な印象を与えるところでもある。

 また、上にあげた反復の演出は、プリプロダクションの設計段階のアイデアなのかも知れないが、例えば、山の渓流シーンの、ゆったりとした時間の使い方は撮影現場での演出の良さだろう。このシーンでは、嵐莉菜奥平大兼がいわゆる「水切り」(石を水面で跳ねさせる遊び)を行うのに、川面を全く画面に映さない(オフで石が水面を跳ねる音はしっかり聞こえる)、という編集の選択がなされており、こういう潔いディシジョンも特筆に値する監督の資質だと思う。入管の施設の中の場面、あるいは施設の職員を全く映さないのも同様だ。

 ただ、実を云うと全体のプロット構成としては、もっと突き抜けた悲劇を予想しながら見ていたので、ちょっと肩透かしの感がある。ラストの嵐莉菜の睨みつけるような目の力には、ある種の希望も感じさせ、これはこれで映画らしい収束だとも思う。しかし、悲劇というよりもカオスになるかも知れないが、ごくワタクシ的には、(筋違いとは分かっているが)平泉成をぶん殴るとか、板橋駿谷の頭を進路情報誌ではたくとか、やって欲しかったぐらいだ。パパ活の場面も中途半端に思えたが、池田良の急所を蹴るぐらいしても良かったんじゃないか、とか思ってしまう(全然違う映画になってしまうが)。ま、ほとんど冗談なのですが、それぐらいのモヤモヤが残ったことは事実なのだ。

 尚、はっきりとした暗転(黒画面)で時間を省略し、シーケンスを繋ぐ処理が2回ある。これって是枝っぽい、と思いながら見た。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ひゅうちゃん[*] KEI[*] [*]

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