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[コメント] ザ・クリエイター/創造者(2023/米)

何と云ってもアルフィーと名付けられた模造人間(シミュラント)の面構え。私にとっては、この子の顔面の魅力で、あらゆる破綻をうやむやにしながらプロットを引っ張る映画だと感じた。いや、映画というのはそれでいいのだと思う。
ゑぎ

 とりあえず、破綻という言葉を使ったので、先に具体例を書いておく。例えば、冒頭のニューアジアのコナンという浜辺へ米軍が急襲する場面から、既に、距離と時間の見せ方が雑だと感じた。いきなりの佳境展開は悪くないが、主人公のジョシュア−ジョン・デヴィッド・ワシントンの正体を妻のマヤ−ジェンマ・チャンが知ってしまう稚拙な見せ方なんかもその一部だ。そして距離と時間のいい加減さはこの後、ラストまで何度も感じることになる。アルフィーが登場するニューアジアの地下基地(研究所)での殺戮場面と脱出シーンしかり、渡辺謙の一番の見せ場になる、水辺の村への米軍の攻撃シーン(でっかい戦車とスーサイド・アタック用ロボットのシーン)もしかり。そして、クライマックスの怒涛の展開においてもだ。特に、このような観点で最も顕著に感じたのは、ノマドという巨大飛行要塞の位置関係の問題で、高度においても、どこの上空にあるのかという点も、全く計り難い。あるいは、ノマド内部でのジョシュアとアルフィーに関する空間的見せ方(云い換えると距離と時間の見せ方)もいい加減なことこの上ないと思った。

 これらは私の感覚で特記すべきと感じた例であって、人によって、他にも気になる点は多々あるだろう。しかし、このような破綻というか、配慮不足な造型も、画面の魅力(最初に書いたように、その最たる例がアルフィーの顔面の魅力だと思う)によって、画面を見る喜びが勝っていけば映画として全然OK、というのが基本的な私の考えだ。アルフィーの造型以外にも、ニューアジアの農村や田園地帯、チベット寺院のような山上の建築物とその門の意匠、貧しいアジア人農民やチベット僧のような模造人間の肌理細かな造型など、瞠目すべき点は多いだろう。また、延々とジョシュアとアルフィーの後を追いかけて来るハウエル大佐−アリソン・ジャネイ及び、将軍役のラルフ・アイネソンも流石の貫禄だと思ったし、渡辺謙だって、見せ場は少ないが、良い存在感ではないか(日本語科白は嬉しかったが、早口過ぎると思ったけれど)。

 ただし、ちょっと映画的な話題では無くなってしまうが、アジア趣味は(日本語の表記多用なども含めて)、多分作り手の純粋なリスペクトなのだろうとは思うけれど、具現化されたイメージは、固定化、単純化されたアジアのイメージにとどまっているとも感じられて、複雑な感覚も持った。あるいは、ラストの笑顔についても(誰の笑顔かは伏せておくが)、様々な受け取り方ができるだろう。私は、単純に一つの勢力の勝利を祝福するものではないと考えるが、それでも、笑顔ではなく、キリっとした顔で終わった方が良かったのではないだろうか。

(評価:★3)

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