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[コメント] 12日の殺人(2022/仏=ベルギー)

猫の映画。冒頭は、犬が走るが。猫は、路上、被害者の写真の中、容疑者の1人であるDV男の彼女の部屋、そして墓地で映る。被害者が猫好きなのは確かだが、DV男も多分猫好きなのだろう(これの真偽も分からないが)。
ゑぎ

 夜の自転車競技場か、黄金色の照明があたるトラック。自転車を漕ぐ男がフレームインする。同様の場面はこの後も何度も挿入される。この男が主人公の刑事(班長)のヨアン−バスティアン・ブイヨン。邦題の事件は、10月12日の夜、郊外というかアルプスに近い町で起こる。友人の家から帰宅途中のクララ。21歳。突然、暗闇から男が現れる。液体をかけられ、ライターの火。炎につつまれて公園を走るクララ。次に、主人公ヨアンの目が見開くクローズアップに繋ぐ。ベッドに寝ている顔。これ、ベタやなぁと思う。ベッドに寝ている主人公の顔の俯瞰ショットも、この後何度か出てくる。後半には、容疑者の男たちを二重露光のようにヨアンの顔に重ねる演出があるのもベタ過ぎないか。

 序盤中盤は、クララの男性関係が、どんどん浮き彫りにされる面白さがプロットを引っぱる。新たな男性の存在が明らかになる度に、ヨアンはクララの親友ナニーを呼び出して聴取することになる構成がいい。特に、ナニーを勤め先のレストランで呼び出して、テーブル席で会話するシーンは良いシーンだろう。男性関係ばかり聞かれることに苛立ち、泣くナニー。クララが殺された理由は一つ、女の子だから、と云う。このシーンも良い照明だと思ったが、2人の切り返しについては、もう少し正面で寄ればいいのにと感じた(構図の好みは私には合わないと思った)。

 また、ヨアンの捜査班のメンバーたちのキャラについても丁寧に描かれるが、中でも歳上の部下マルソー−ブーリ・ランネールの描き方は別格で、彼がプロットをドライブする作劇部分もポイントになる。ヨアンは寡黙で冷静沈着、常に落ち着いた所作の演出が付けられており、マルソーはヴェルレーヌの詩を口ずさむ、本当はフランス語の教師になりたいと思っているぐらい言葉に対して敏感な人。しかし、非常に暴力的な側面もある。マルソーが山の方へ一人歩いて行くショットで退場してしまい、3年が経過したことに全く触れずに、唐突に予審判事が歩くショットを繋ぐカッティングには驚かされた。この時空の転換は鮮やかだ。

 もう一人、重要なメンバー(ヨアンの部下)は、終盤になって登場するナディア−ムーナ・スアレムだ。この新米女性刑事の存在により、本作のテーマ性がより明確化されるのだが、しかし、何よりも、この人の映画的な面構えがいいし、度量含めてカッコ良く描かれているのが美点だろう。3年後の10月12日の夜、ヨアンが一緒にいるのはナディアだ。本作の原題は「12日の夜」ということになるようだが、邦題にも「夜」という言葉があった方が良かったと思う。尚、ラストまでマルソーの存在が効いて来る見せ方もいい。本作は自転車の映画でもある。あと、エンドロールのBGMの入り方もカッコいい。

(評価:★3)

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