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[コメント] 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎(1983/日)

山田洋次監督の、観客への思いやりを感じさせる。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







竹下景子のきれいなこと。清楚な色気を漂わせてぞくぞくさせる。竹下景子の魅力を存分にいかして、寅さんの恋愛模様のある意味完成形ともいえるラストは、なんとも言えない。最後の最後で踏み切れない寅さんの心の底は思った以上に複雑なんだなあ、と感じさせた。

それにしても寅さんには一方で、生々しい現実も登場する。ラスト、タコ社長がさりげなく「博の遺産から投資してもらった」と話したが、前半の岡山での三回忌の兄弟たちの話し合いは、結局「家を処分して金で決着か?」と伺わせる。

そしてそれをはっきりと明示しないところが山田洋次の、観客への思いやりではないだろうか。

大金持ちの遺産争いなんてのはどうでもよいが、4人兄弟の長兄が、せめて自分が幼い頃を過ごした、懐かしき、思い出多い家だけは残したい、できることならそこで晩年を過ごしたいという、ある意味、誰でも共感できるような当然の願いも、世知辛い当世ではなかなかそうはいかない。

次兄の「家を残すのは構わないが、その分の自分の受け取る遺産分はどうなるのか」というのも当然の主張だし、実際、なんだかんだで金に困っているのはやっぱり博なんだろう。

だから、長兄の郷愁はありつつも、現実的には家屋敷を処分してそのお金を兄弟で分配する、というのが一番ありそうなケースだ。それでも、このラストではそこを明示せずに、「ひょっとしたら、長兄が無理して金をつくって、それで他の兄弟を納得させて、あの家屋敷を残したんじゃないだろうか」というささやかな希望を感じさせる。

「無理かもしれないけども、そうであって欲しい」、この観客の願いを尊重していることが、山田洋次監督が長期にわたって人々に愛される映画を撮れる秘訣ではないだろうか。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)寒山拾得[*] 牛乳瓶 ぽんしゅう[*]

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