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[コメント] ミッドサマー(2019/米=スウェーデン)

これは教訓集なのかしらん? 陽光ホラーという新ジャンル?への挑戦を買って★4。フローレンス・ピューは、『ファイティング・ファミリー』との役柄の落差が良いですね。
ロープブレーク

**ネタバレ注意**
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こともあろうに博士論文のネタを一週間程度のフィールドワークですませてしまおうなんて万死に値するってところでしょうか。

私事ですが、学部生時代、自分の専攻のセミナールームの隣が人類学のセミナールームでした。そんな縁でちょくちょく隣にも顔を出していて、人類学専攻生のノリを懐かしく思い出すことができました。

当時の私の大学では、人類学は、分析哲学系の先生と民俗学系の先生との呉越同舟で、私が親しくさせていただいていたのは分析哲学系の先生だったのですが、会話から察するにミッドサマーの学生さんたちは民俗学系ですよね(アメリカだからカルチュラルスタディーズと言うべきか)。異文化研究と異文化性交の境目がない感じとか、うちの大学だけじゃなかったんだなと映画見て思いました。そういうあれやこれやを、冷ややかな目で見ていた分析哲学系の学生の視点が、精神分析学専攻のフローレンス・ピューと被ります。

分析系を専攻する学生って、少なからず共依存やアイデンティティクライシスに悩んでいて、分析で自己を武装しようとしたいんだけれども、学部程度の知識と経験じゃとても武装にならない。それで教授にすがる。教授はすがってくる学生に、自己の世界と他者の世界を切り分けるすべを、学問をツールに厳しくたたき込む。今思えば、そんな人類学専攻師弟のやり取りを、当時、桟敷席で見させてもらっていたんだな。

ミッドサマーには教授が出てきませんよね。そんでもって、とても博士課程の学生とは思えない学究態度。これは禍事に巻き込まれてもさもありなん。

なんて思って見てました。全員まとめてこいつら絶対Ph.Dは無理だよ。なんてね。←すみません、私は学部卒なのに大口叩きました(しかも人類学専攻でもない)。

もうひとつ。

分析哲学系の先生は、なぜか北欧人を下に見ていたんですよね。彼/彼女らは十分に近代化していない。日本の田舎と同じなので、日本人が交流しても同質的すぎて人類学的には学びにならないと。その先生はハーバード出身でバリバリのアメリカノリだったのですが、アメリカ人が北欧にフィールドワークに行くのって、彼/彼女らが日本の田舎の奇祭に興味を持つのと感覚的に同じなんでしょうね。

ハーバードは、あまり知られていないけれどもプロテスタント神学母体の大学(日本で言うと同志社みたいな)なので、近代至上主義なんですよ。いや、ロンドン大学で人類学のマスターを取った私の友人も、近代を徹底経由していないポスト近代は退行という意識の人なので、近代至上主義は欧米のインテリに共通の意識なのかな。

異文化を尊重するといっても、近代を経由していない異文化はダメだって言うんですね。人権や個人主義を経由しないで伝統に回帰すると、それは殺戮の時代に戻るだけだって。イマイチピンとこなかったのですが、ミッドサマーを見てそういうことなのかと思いました。

勉強不足のクリスチャンご一行様が、半端な近代の田舎国家に出かけていったら、双方に死体が増えるだけだったというストーリーのこの映画、ホラーというよりアホらーという感じ。陰毛だけにインモラル。←しつこい

今日、タリバンがアフガン全域を支配したというニュースが流れてきました。彼らはどうなんだろう?中国共産党は?いやいやオリンピック開会で派手にやらかした本邦は?人権と個人主義は大切にされているのかな。

ミッドサマー、意外と今日的に必見の映画なのかもしれません。

(評価:★4)

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