コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] エクソシスト・ビギニング(2004/米)

羊たちの沈黙』に対する『ハンニバル』の立ち位置に、よく似た映画。一見、視覚的には本家よりもより現代的に洗練されているように見えなくもないものの、要は小手先だけでカッコつけてるだけで、物語同様に、画面の深みでも負けている。
煽尼采

オープニングを見ただけで既にダメな映画だと分かってしまう。実際、本編を観ても、その印象は変わらない。CGはしょぼいし、いくら神父辞めたからって、メリンは眼球が女の胸元の引力に引き寄せられてしまうような俗物だし、恐怖感よりビックリ感に力点が置かれていて、心理的なドラマに乏しいし、こんな出来では『エクソシスト』の名に相応しくない。

監督のレニー・ハーリンは、監督作に『ダイ・ハード2』や『クリフ・ハンガー』があって、共に僕も観た事あるけど、職人的な優秀さは持っている人だと思う。実際、この映画でも、悪魔との対決シーンだけは、なかなか健闘していたと思う。ただし、完全にアクション映画になってしまっているけど。

エクソシスト』的意匠は用いているものの、全くの別作品だと思った方が良い。キス・シーンやら、シャワー・シーンやら、ハリウッド的お約束に忠実な、ただのハリウッド映画でしかない。悪魔の禍々しさを心理的に描く力量など皆無で、全篇に渡り、蛆虫やらハイエナやら皮膚病やら、見た目の気色悪さに頼りっきり。演出的無能さの代替物、便利な悪魔の記号として、飛び回る蝿。

人種的偏見を一つの大きな‘悪’として描き、この悪が結局は、癌細胞のようにあらゆる人間を憎悪と殺戮に導いてしまうのではないか?というメッセージ性はまぁ良いんだけど、これだけ直截にやられると、ね。全体的に演出が派手目で、本家『エクソシスト』が小さな一室に対決の場を限定する事で心理劇としての緊張度を高めているのとは対照的。『エクソシスト』の画期的な点は、ホラー映画でありつつも、悪魔の恐怖に耐えて立ち向かう意志の力を観客に体験させるという、善と悪の精神的な格闘戦にある。この『ビギニング』はなんとかその門口まで手が届きそうになってはいるものの、力及ばずただのアクション映画のまま終了。

(評価:★1)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] CRIMSON[*] Myurakz[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。