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[コメント] オールド・ボーイ(2003/韓国)

未見の人は、なるべく事前に情報を入れないで観る事をお薦めする。近年稀に見るストーリーテリング。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







セックスと暴力は映画のスパイスであると同時に、微妙な味わいを感じ取る舌を麻痺させる、安易な刺激物にもなりかねない。しかしこの『オールド・ボーイ』では、激しい情念を惹起する為の要素として、非常に説得力のある使われ方がされているように思う。この映画のテーマである‘復讐’を描くには、必要な要素だ。

しかし、‘復讐’というテーマそのものもまた、‘記憶’という、より根本のテーマを引っぱり上げる為の仕掛けだったのかも知れない。忘れてしまった記憶、忘れられない記憶、忘れてはならない記憶、忘れてしまいたい記憶。自分は誰で、何を為そうとしているのか。そうした記憶が自分の人生を作る。自分=記憶。

そして記憶は、感情によって脳裏に刻み込まれ、今度は記憶の方が、強い感情を繰り返し備給し続ける。‘OLD’と‘BOY’。過去と未来。追う者と追われる者。加害者と被害者。憎しみ合う事による、「あいつにも同じ苦しみを」という形での、同一性への希求。自分の尾を喰らおうとする蛇のように、目的を追う者は、目的そのものに人生を呑み込まれていく。

愛憎を両手でグッと圧縮して固めたような、濃厚なドラマ。思えば、監禁というシチュエーションも、一人の男の怒り、嘆き、絶望、希望、そうしたあらゆる感情を‘缶詰’にしてしまう事でもある。それがフタを開いた時の爆発によって、全てが展開する、そんな映画。

主人公は、自分が何気なく口にした言葉によって、一人の女性を死に追いやる結果になるのだが、その彼が、復讐者の前に跪いて、自らの舌を切り落とすのは、自らを罰する最大限の表現だったのだろう。しかし、その彼は最後には、自らの記憶を封印する事で、実の娘である女の元へ戻って行く。彼を監禁した復讐者は、自ら自覚した上で姉と近親相姦を行ない、それを洩らした男に復讐したのだが、その復讐を受けた男の方は逆に、自覚しないままに行なってしまった近親相姦の記憶を封じる事で、実は娘である女との生活に帰る…。つまり、彼にとっては受け入れられない行為である筈の近親相姦関係を、自ら知らないままに継続する事になるわけだ。或いは、これは復讐者からの最大の復讐とも言えなくはないのだが、反面、却って復讐者によって、「愛する女性との人生」という、復讐者自身は得られなかった幸福を、主人公が手にする事になったとも言える。こうして、先に述べた、被害者と加害者の同一化、という面は、大きな齟齬を内包しながら完成されていくわけだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)irodori[*] DSCH[*] ぽんしゅう[*]

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