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[コメント] 世界(2004/中国=日=仏)

何度か挿まれる、タオ(チャオ・タオ)が乗り物で移動しながら外の景色を見つめるカットに漂う、彼女の抱える空虚さ。紛い物の「世界」が集約された場所から逃れられないタオ。「世界が一望」できる「エッフェル塔」の眼下に広がる、卑近な街並。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ジャ・ジャンクーらしい唐突さで挿入されるアニメーションは、常に携帯電話の着信に連動して使われている。携帯電話、ここではないどこかからの声。アニメによる、空飛ぶタオなどの、離脱と解放の幻。しかしそれも、「二姫が死んだ」という報せや、タオの恋人・タイシェン(チェン・タイシェン)が密かに心を傾かせていた女・チュンからのメールを目にしてしまうなど、断絶という現実へ変わっていく。ラストで、死という暗闇の中、台詞だけは解放を謳うのも、上述のような流れの果ての必然だろう。

タオの同僚が主任に出世したときも、彼女はタオに「トランシーバーで話すだけよ」と呟く。この二人の会話で発せられた「今年は雪が降らないわね」という言葉に続いて、舞台上で紙吹雪が舞うシーンが現れる。トランシーバーの向こうの他人、という距離。紙吹雪という、華々しい紛い物。

ロシアから来たアンナに、タオは「色んな場所に行けて羨ましい」と漏らすが、或る店のトイレで偶然、そこでホステスをしているアンナと再会するシーンでは、その直前、他のホステスが、酒の飲みすぎか、嘔吐している姿が見える。そんな過酷な仕事を余儀なくされているアンナ。タオもまた、その店で男から誘われ、逃げてきたのだった。アンナを見つけたタオが泣き崩れるのは、アンナに託していた自由が儚く消えたせいだ。

だが、二姫と屋上で話していたタオが、「私の周りには飛行機に乗った人いないもの」と告げる台詞と対照的に、アンナは、妹の居るウランバートル行きの機内にその姿を見せるのだ。アンナには、遠方に居る妹との繋がりがあり、妹に会いに行くという夢を叶えることもできたようだ。

その一方、劇中には、タオの同僚が、恋人の男から、携帯電話を通じて束縛を受ける様子も描かれている。携帯電話は、他人との物理的な隔たりだけではなく、逆に、常に他人から離れられない煩わしさという面でも捉えられているのだ。

この束縛男が、衣裳部屋で恋人の態度に苛立って、服を燃やすシーンや、タイシェンとチュンの別れのシーンで、彼が見つめる窓の外に燃える炎、ラスト・シーンでの、遠くに見える工場の煙突から出ている青白い炎など、男女の熱情と常にリンクしている炎はまた、常に不吉な輝きを放ってもいる。死の直前の炎が青白いというのも、実に容赦のない演出。

(評価:★3)

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