コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 山のあなた 徳市の恋(2008/日)

按摩と女』を悉く記憶している訳では勿論ないが、ほぼ完コピに近い印象。パステル調に抑えながらも鮮やかな色調には、カラー化されたモノクロ映像のような美しさを感じる。山の緑が目に沁みる……。ただ、控えめなようでいてやはり音楽が前に出すぎ。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







僕は清水宏監督の作品を全て観た訳ではないが、或る場所(旅館、バス、養護施設)に集まった人々の、仮初めの、緩やかな共同体を描く事に長けた作家という印象がある。その中でも『按摩と女』は、帰るのか帰らないのか決めかねる旅客たちが醸し出す、保留された離別、引き延ばされた時間、という要素や、連続する窃盗事件と、東京の女客の正体不明さによる、仄かなサスペンス性、更には、盲目の按摩たちの活躍する、視覚的に演出された「見えない世界」、といった幾つもの要素が絡み合う事による、独得の時空間の演出が光る作品だった。特に按摩たちの盲目という要素は今回、先述した「カラー化されたモノクロ映像」のような印象と、上手い具合にマッチしていた。

『按摩と女』で特に印象的だった別れの場面でのショットの工夫も、そのまま活かされていた。なので、その辺の批評は『按摩と女』のレビューに譲ります。ショットと言えば、エンドロールの画が綺麗。構図が整っている。本編での写経のようにオリジナルをなぞる演出を終えた後の安堵や解放感のようなものも漂って見える。ラストカットを按摩たちの杖にするのも良い。「目あき」の観客は按摩たちが道を歩く場面で何度もこの杖を見ていた筈だが、それと意識して見ていた訳でもなく、改めてクローズアップされてみると、按摩たちがトコトコ歩くのをずっと助けていたこの杖たちの佇まいには、情感を覚える。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。