コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 花嫁人形(1919/独)

万難を排してでも、と覚悟を決めての鑑賞だったが、花嫁人形は私の期待に応えるどころか、それを軽く凌駕した高みで私を待ちかまえていた。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







サイレント映画はずるい。 そこでは、ちょっとウケを狙うだけで客席から笑いが起きるからだ。 「笑いは緊張が緩和する際に生じやすい」と耳にしたことがあるが、これが事実であるなら、サイレント映画がサイレントであるという性質上観客に強いてくる緊張感が前述の現象の根拠の一つに挙げられるのではないか。 とにかく、サイレント映画はずるいのである。

だが、この花嫁人形はそんなずるさを微塵も感じさせない。 最初から最後まで観客は笑い通しでの鑑賞を強いられてしまい、そこに緊張感も糞もないわけだ。

例えば、序盤、主人公はいきなり坂から転げて池に落ちるのだが、その後ずぶぬれになった主人公の体から蒸気があがるシーンを見て笑わずにいられるだろうか。 人形師の親父がショックのあまり白髪になるシーンを見て笑わずにいられるだろうか。 (それ以上に悩みが晴れて黒髪に戻る時のあの顔!) また、見習いの少年の現れるところには必ずといっていいほど笑いがあった。

メタ的な演出をしたり、繰り返しを上手く笑いに繋げる一方、聖職者やブルジョワに対し痛烈な皮肉を忘れないところなどルビッチの巧さには舌を巻かざるをえない。 アニメーションやコマ落としやトリック撮影など映画的表現方法を自由自在に、かつ効果的に用いている点も見逃せない。

笑いだけではない。 結婚式でのダンスシーンは華やかでかつ優しさに包まれ、それまで機械的な動きしか見せてこなかったオッシーが軽やかに踊ることにより映像的な美しさにも溢れており、観客にとって忘れえぬ1シーンとなったはずである。

万難を排してでも、と覚悟を決めての鑑賞だったが、花嫁人形は私の期待に応えるどころか、それを軽く凌駕した高みで私を待ちかまえていた。

ラスト、多少の映像の乱れがあったのが惜しい。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。