[コメント] パンドラの匣(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
人物が一人一人魅力的に描写されていますね(ふかわの使い方が何とも上手い)。特にマー坊は不思議なまでに可愛らしく惚れてしまいそうである。死と隣り合いながらも(今から見れば)ちょっとおかしな施設で、活き活きと楽しく、時にナンセンスに、時に悲しく、淡々と過ごしていく人々、その喜怒哀楽を美しく魅せている。
以下、この映画の面白さを全く伝えられない堅苦しいレビュー。
戦時中に結核を患うという、お国のために全くの役立たずな自分には戦時下を生きる資格がない、ということを悟ってしまった一人の少年。
敗戦によってパンドラの匣が開かれ、国民は国家の一要因として生きなければならないという大きな物語の呪縛から解き放たれる。
匣によってこれから新たな様々の災いや困難が降り注ぐかもしれないが、人々は新たな生きる道を模索でき、どん底からの復興という別の大きな物語に希望を匣の中に見出す。
いつ死んでもおかしくない回復の見込みも分からない人生を悟ってしまったかのような少年にとっては、そのようなものに希望を見出せるはずがない。ただ、生きる意義というものを強制されることもなくなったので、勝手に絶望する必要も無い。少年は匣の中に小さく輝く希望を別に見出す。
日本でいち早く時代を先取り冷笑的なスノッブ(=「新しい男」)に必然的になった少年。
今の時代こういうスノッブな人物も減ってしまい、スノッブ嫌いという人も少なからずいると思うけれども、この少年にはスノッブ特有の嫌らしさはあまり感じられない。これは、少年の未熟さゆえの可愛らしさ、これからまた別に成長する可能性があるからだ。
「生きる意味なんてないけど、まあ生きてやろうじゃん。俺は人生の意味(無意味さの意味)を知ってるんだぜ。お前なんにも分かってねえな」
とか思いながら、実はスノッブな自分が一番分かって無い事に最終的に気づく。
「新しい男」とはなんとアホくさい事か。
終戦からの日本人の思想変遷の歴史を、この少年が体現しているといえば言い過ぎか。
しかし、時代の変遷でどのようなスタンスを取れば分からないような今の人(私)にとって、彼のような人物に共鳴できる人も多いはず。
2010 1/3
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