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[コメント] 四十挺の拳銃(1957/米)

ジョセフ・バイロック! 構図や光の加減が非の打ち所なく完璧というわけではないが、しかし黒白のシネスコにおいてこれを超えるのは難しいと感じさせる力感溢れる画面群だ。驚愕の長回し。最高に壮観な風景撮影。竜巻のシーンなんてどうやって撮ったのだろう! 演出家の無茶に応えるのが撮影者の仕事だ。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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バーバラ・スタンウィックが「女帝」だというので、『大砂塵』のように女性(スタンウィック)が強く、男(バリー・サリヴァン)が不甲斐ない西部劇なのかしらと思っていたが、とんでもない。このサリヴァンは西部劇史上で考えても相当の強さだと見た。拳銃を持った暴れん坊のジョン・エリクソンに向かって悠々と歩いて近づき、右フック一発でノックアウトする。エリクソンの仲間たちはなぜかサリヴァンの歩き方を見ただけで退散してしまう。彼が「銃を撃たない。人を殺さない」と決めていること、末弟ロバート・ディックスには自分のようにではなく農民になってほしいと望んでいることなどが次第に明らかになり、一方で最後の対決では「射撃の正確性」と「人を撃つことに対する躊躇を捨てられる」という殺人者としての圧倒的な才能を見せつける。このサリヴァンを『許されざる者』のクリント・イーストウッド=ウィリアム・マニーの一原型と見るのあながち不当ではないだろう。

スタンウィックはもちろん貫禄じゅうぶんだが、先ほど名前を挙げた『大砂塵』のようなインパクトを期待すると少々物足りないかもしれない。しかしラストシーンで見せる「変身」ぶりは掛値なしに感動的だ。序盤にあっけなくエリクソンに殺される失明寸前の保安官は、演じているのがハンク・ウォーデンということもあって、とてつもなく憐れみを誘われる。

以上のような撮影の凄さ、キャラクタリゼーションの面白さを別にしても、観客を驚かせる演出が多く仕込まれている。たとえば、“High Ridin' Woman with a Whip”という歌曲が流れるシーン。はじめその歌唱および伴奏は単なるBGMだと思われるが、カメラの動きによってギター奏者、続いて歌い手(風呂屋の主人ジッジ・キャロル)がフレームインする。すなわち、それはBGMではなく現実音だったのであり、ここは一種のミュージカル・シーンだったことが明らかになるのだ。映画の文法というか制度というか、もっと云えば観客の思い込みを逆手に取った驚きの創出だと云えるだろう。次男ジーン・バリーと銃工の娘イヴ・ブレントのロマンティックな雰囲気のシーンにおける、彼女を銃口から覗いた形の気違いじみたアイリス・カットも吃驚ものだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)袋のうさぎ ゑぎ[*]

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