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[コメント] 王様と鳥(1980/仏)

暴政への揶揄は当然だが、「自由」を一面的に「善」と捉えず、その「可能性」に放り出される厳しさ(茫漠たる荒野)や、それを獲得するために振るわれた暴力へ向けた冷静な視線が心地よい。更に、大小・高低の演出と美術が素晴らしく、映画内世界の巨大な拡がりが、作品を寓意に縮こまることから救っている・・・が、能書き以前に、王のドッペルゲンガー登場以降の不条理で美しい悪夢的世界の魅惑に酔うべきだ。キレキレである。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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天空楼閣(監獄)、絵画との往還、落とし穴、同じ顔の警官隊、ドッペルゲンガー、からくりの道化、壊れた自動楽団、処刑場の手回しオルガン、悲鳴の不在、閉ざされた鈍色の空、偶像生産工場、地下迷宮、蝙蝠部隊、王とロバと私、堕とされた結婚行進曲、青銅の巨像・・・この悪夢世界には抗しがたい。結婚行進曲の禍々しく歪められた轟音などにも 垂涎。風刺映画を飛び越して恐怖映画に近い。これが「正真正銘ほんものの物語です」と前置きされてから始まるのにも恐れ入る。肝が据わっていると思う。

アンデルセンの童話からイメージを起案していることもあって、前述のドッペルゲンガーを含め、意味ありげなモチーフが無数にばらまかれている。謎が謎のまま放擲される設定も、「不親切」ではなく、むしろイマジネーションを刺激して没入感を高める。寓話というのは理性的な企みと思うが、ほとんど思いつきのようにも見えるイメージの奔流が作品を退屈から救い、それ以上のものに高めていく。

また、一見テンポを乱すようにも見えるナンセンスな笑いの挿話群(落とし穴を避けて「ダンス」する、落とし穴に蝙蝠傘でひっかかったまま王の犬とぶつぶつ話す・・・)が醸すシュールなリズムが、むしろ風刺的な「笑い」というより「恐怖」として作用する。

エレベータの案内人が王の迷宮各階の解説を淡々と昏くつぶやくシーンがよい。「税務省、訴訟課、王の警護音楽隊、拷問、春監獄、秋監獄、王のならずもの、最後の備蓄、メリヤス類、公衆便所武力型、王の秘密アパルトマン」などのイカれたワードの連発だけで狂喜してしまう。「公衆便所武力型」って一体何だ!

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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