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[コメント] 人生万歳!(2009/米)

厭世と屁理屈が周回して突き抜けた先が、既成価値の爆破とあっけらかんとした楽観。今や大して珍しくもない話で、それ自体がボリスに言わしめるクリシェ(陳腐な表現)であるような気もするし、ウッドの可愛さも異常とはいえ見慣れたミューズ造形の範疇だが、脚本封印から30年を経て敢えて「これでもか」と押してくるアレンの年季と提示タイミングに説得力。それこそ「クリシェ」的強度。音楽ネタが素晴らしい。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ボリスの身投げシーンを直接映さない(ここは元妻のアップカットに終始)ところ、これに対しての終盤の身投げのあっけなさなど、最近のアレン演出がカマすシンプルな面白さは途轍もないものがある。『地獄の黙示録』への目配せ(カーツ大佐の台詞への言及)や、前述の身投げシーンでの「第9」使用も『時計じかけのオレンジ』の身投げを彷彿とさせ、恐怖と暴力の名作へ敬意を示しつつ否定する要領のよさが愉しい。思索(悪意と恐怖)に耽り周りが見えないまま帰宅するボリスを薄汚い身なりのメロディが突然呼び止めるシーン。BGMのベートーベンが「ブチッ」と切られる。慌てふためき階段から落ちかけるボリス。このセンスがとても好き。この「間」が凄すぎるのである。ベートーベンが苦手で『時計じかけのオレンジ』が好きなら絶対分かる「間」だ(笑

ラリー・デヴィッドは3819695さんが指摘される通りアレンと比べ可愛げが先行しない攻撃的で明確な輪郭をまとっており、ウッドとの漫才の中で醸される「変奏」の味わいがあるのも確かだが、短パンからのぞくぐにゃぐにゃしたなまっちろい足を引きずったり、枯れ木のような腕を一生懸命振ったり頭を抱えるアレンも観たいと思うのも、また確かな話。

ところで、メタな直接的語りかけが「切実」なアレンの心情を吐露しているように私には見え、「今語らねばならない」という覚悟というか、何よりアレンも年なんだよな、という事実に思いを馳せると、軽やかな語り口と見てくれに、かえって重さを感じないでもない。

(評価:★4)

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