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[コメント] ぼくの名前はズッキーニ(2016/スイス=仏)

短い上映時間ながら心を掴まれるほど人形にリアルさがあった。アニメーションだけど大人に向けたメッセージのある作品だった。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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大好きなストップモーションアニメで撮られた作品。ライカ作品よりも愛のあるというか不気味というか雑というか、要は味のある作りになっていますが、アカデミー賞にノミネートされるほど評価の高い作品です。

正直先ほどの雑という表現は不適切で、不気味というのはあながち間違いではないと思うのですが、それは彼らの境遇を考えると納得できる表現ですし、雑というのもライカなどとの比較の中での話です。というかそもそもライカが3Dプリンタなどを用いてナチュラルさを出してるのに対して、本作のそれは手作りの人形感が強い分、そのような表現に見えるというだけで、そもそもの表現のベクトルが違いますし、実際はものすごく繊細に作られています。 中でも印象的なのは目ですね。ストップモーションは非常に手間のかかる技術ですが、本作に登場する人物たちの心情の機微な変化を目の動き一つで丁寧に表現していて、そういう意味では心を持つ人形なのではないかと思えるほどのリアルさがありました。

主人公のズッキーニの境遇はかわいそうなもので、父親は他の女と出て行き、母親はその影響か酒に明け暮れ依存症に。そしてズッキーニに手をあげる始末。そもそもズッキーニという名前自体本名ではないのに、人に笑われるような名前で子どもを読んだりする。 同情しなくはないですが、子ども視点に立つとかわいそうに思わずにはいられないわけです。

ただ、ズッキーニが施設に行くのは事故的に母親を殺してしまったからで、そこに行く時も母親を象徴する空き缶と、父親を象徴する凧を持っていく辺り、どんな扱いを受けたとしても子どもの純粋さというのは胸に刺さります。

施設にいる子どもたちはみんな辛い過去を背負っています。それなのに決して涙を流すことがないというのは印象的で、だからこそ悲しみの涙ではない涙を流すシーンはグッとくるものがあります。

本作においての主人公はズッキーニであり、カミーユであるわけですが、間違いなくキーマンになるのはグループのリーダー的存在のシモンです。 一見やんちゃで嫌な奴に思われがちですが、実はものすごく仲間思いで繊細で優しい心の持ち主。映画の時のジャイアンみたいな奴です。ズッキーニに居場所を作るために声をかけたのも、カミーユを危機から救ったのも、そして二人が出て行く背中を押したのも、全てシモンの手柄です。 愛を求めていたシモンが友情の思いの大切さに気づき、気分予報をスッと晴れマークにするシーンの温かさ、優しさは文句なしに秀逸だったと思います。

ラストシーン。監督のコメントにもあったように、子どもは空を自由に舞う凧のように大空を羽ばたいてほしいと。ただ、本当に自由に飛び立つその時まで、その紐はしっかりと大人が握っていてやらねばならないと。まったくその通りだと思いました。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)プロキオン14[*] ぽんしゅう[*]

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