コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 淵に立つ(2016/日=仏)

観終えた直後は頼りない印象だったが、後でじわじわ効いてきた(含『テオレマ』のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







テオレマ』とは上手いこと仰る。この作品で補助線を引くと、本作は一気に見通しがよくなる。

テレンス・スタンプはブルジョア家庭を容赦なく破壊するために登場していた。本作の浅野忠信は、もう少し曲折があるが、この一家にとっては同じ立ち位置にある。監督はパゾリーニのように家庭を破壊することを「目的」とはしない。無自覚に浮遊する家庭の根無し草な存立に、『テオレマ』の方法でもって批評しようとしている。

序盤に強調されたキリスト教は事件発生後、表に現れなくなるが、これは無視されたのではなく、本作全編が信仰の猫型から猿型への移行過程を描いているためだ。云わばキリストが家庭に剣を持ち込んだのだ(海外で評価が高いのはこのためでもあるだろう)。

「これで本当の家族になったんだ」という古舘寛治の感慨に、信仰者である筒井真理子は激しく抵抗する。この反転は辛いが、作者の力点はここに置かれている。「幸福」だったころの集合写真と相似形を構えるラスト、古舘は真広佳奈に、三番目に、しかし最も熱心に蘇生法を施す。この順序に作者はほんの微かな希望、彼の「復活」を見ている。何のカタルシスもなくハードだが、とてもいい収束だった。

犯罪歴者と障がい者を扱うのは難しい。簡単に扱うべきではなく、軽薄な側面があればネタとして扱っていると切り捨てられるだろう。本作はギリギリの処だが、そうは云わせない凄味がある。ただ収束辺りの『オアシス』との類似は甘く、全体のハードさから浮いていて違和感が残った。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。