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[コメント] 声優夫婦の甘くない生活(2019/イスラエル)

憧れと現実。男と女の視点の相違。珍しく良く出来た邦題。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







素敵な声から素敵な女性だと妄想して「憧れる」男が登場しますね。 これを仮に「百万本のバラエピソード」と命名しますが、このエピソードとソ連から「憧れの聖地」イスラエルに移住したユダヤ人の「現実とのギャップ」が丸っと重なるのです。

つまりこれは「憧れと現実」を描いた映画なのだと思います。

表面上は、憧れと現実の間で揺れる夫婦の(再生の)物語に見えますが、実は夫婦の視点は一致していません。 「男女の視点の相違」を通じて「憧れと現実」が描かれます。 理想(憧れ)を追いがちな男と現実に目を向けている女の違い、と言い換えてもいいでしょう。

会話の内容から、どうやら「憧れの聖地」への移住を望んだのは夫のようです。妻は着いた初日から不安そうに見えます。 住居到着早々、夫は謎のスイッチを気にしますが、妻は床がガタついている足元を気にします。男と女では目が行く先が違うのです。 そしてもちろん職業選択の違い。夫は過去の栄光に固執し、妻は新しい世界を受け入れるのです。

むしろ夫は、過去に固執しすぎた結果、本来「憧れ」だったはずの舞台俳優を躊躇します。そして、もはや吹き替え人生が過ぎた結果、自分自身を見失っているのです。 一方、現実に目を向けていたはずの妻も、「百万本のバラエピソード」で我を失います。 しかしそれは無駄なことではありません。 この夫婦は、一度我を失うことで、新たなスタート地点に立てたのです。

特殊な歴史的背景を持つイスラエルの国情はよく分かりませんが、おそらくこうした移民が多くいるのでしょう。 実際、主演の二人はソ連からの移民、監督もベラルーシからの移民だそうです。 そうした多くの移民は、憧れから移住し、現実とのギャップに悩み、一度自分を見失い、そこから新たなスタートを切ったのでしょう。 そうした状況を深刻にならずにコミカルに消化(昇華)した映画なのだと思います。

最後に余談ですが、こりゃまたクソみたいな邦題を付けられたもんだと哀れんでいたんですけど、映画を観たら(珍しく)良く出来た邦題でした。 ま、『甘い生活』は出てこないけどね。

(2020.12.29 チネチッタ川崎にて鑑賞)

(評価:★4)

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