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[コメント] マイケル・ジャクソン THIS IS IT(2009/米)

全知全能のポップスの神が超優秀なスタッフを使って幻想の世界を創生する、その過程のドキュメンタリー。神としてのマイケルの言葉に、スタッフ達がすぐに反応して、どんどん音楽が作られていく光景は圧巻。091101
しど

これはドキュメンタリーとして考えるべきなんだろうか、それとも単なるライブ映画なのか、メイキングなのか。そんな風に考えて見始めたが、あっという間にそのステージの凄さに感動してしまう。劇場で見たので、大音量、大アップのライブ映画として、まず、十分楽しめた。

何しろ、マイケルが凄い。超一流のスタッフの中においても、群を抜いた歌と踊りを見せる。自分でもコントロールできないほどの溢れる才能を持て余しながら、周りには優しく取り繕う。時にはマイケルも荒れることがあるが、そのときは優秀なスタッフがきちんとコントロールする。そして、ステージがどんどん作り上げられ、超スーパー級のエンタテイメントが繰り広げられる。

マイケルを信望して集まった世界トップクラスのスタッフ達が、本当に、マイケルを信頼しているし、マイケル自身も彼らを大切に扱う。その一体感がとても心地良い。

以前、「スリラー」のメイキングビデオで、ジョン・ランディス監督と作業をしている若きマイケルの様子を見たことがある。この時も、マイケルはとても楽しそうだった。子供の頃からショウビズのスターとして孤独な生活を送ってきたであろう彼にとって(父からの暴力もあったし)、一番安心できる場所は、気心の知れた仲間との作業現場であったのだと思う。

今回も、現場でのマイケルは、本当に幸せそうだった。スキャンダラスな扱いの外界とは異なり、この「マイケルワールド」では、自身の全知全能のおもむくままに振舞える。作品でも、舞台ディレクター(この作品の監督でもある)から「まるで宗教のようだ」と冗談交じりでいわれる場面もある。リハーサル現場は、マイケルが何度も口にする「LOVE」に満ちていた。ただし、エンディングクレジット後のつけたしは、「外界でそれやると、ちょっとウザイかもよ?」てな蛇足ぶりではある。

ついでに作品への注文をすれば、全ての歌の歌詞を字幕表示して欲しかった。知らない歌のシーンになると集中力が保てなくなるし、知ってる曲でも日本語訳を見てないから、実際は何についての歌か知らなかったりするし。

それにしても、死に方からするとジャンキーのイメージだが、リハーサルをあれだけこなしている50歳の姿を見れば、さほど深刻であったとは思えない(実は覚せい剤でハイになってたりとか(笑))。

どうして、自分が作り上げた世界を実現する前に他界してしまったのか。偉人の死は時に、時代の終焉を意味することがある。オバマが大統領になったことに結びつければ、「白人に成りたかった黒人の時代の終焉」になるのかもしれない。悲劇ではあるが、「死」が無ければ、今回の作品は作られず、私もマイケルの姿を直視することは無かっただろう。これほどの「天才」がどうしてスキャンダルにまみれなければならなかったのか。白人アーティストだったら、あそこまで叩かれていただろうか。幸せそうなマイケルの姿を見ながら、そんなことをふと思った。

観客のいないリハーサル風景の映像に、映画の観客の私達が加わることによって初めてコンサートは成立する。そしてマイケルの生涯は成就する。マイケルの死が時代の変わり目の象徴だとすれば、世界同時上映期間の劇場で見ることは、マイケルの時代を共有する体験なのかもしれない。

(評価:★4)

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