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[コメント] メメント(2000/米)

いいね、いいね。奇矯な設定と時間軸を逆にたどる手法が有機的に結びついて、すごくワクワクさせられる。ただ、この結末はうーん…というところで4点。
STF

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







久しぶりに興奮したので、ちょっとネタバレ文をしたためたい気分。

時間軸を逆に追っていく構成の中に、トリッキーな「騙し」が含まれて、なるほど! と思える作品であるのが、新本格のミステリー小説のようで、個人的にかなり気に入っている作品ではあります。  まずニヤリとさせられるポイントが、ナタリーが彼の障害を利用して、実はレナードに殴られた傷をあたかも恋人に殴られたかのような偽装をし、殺人をし向ける、という点。

次のサプライズが、クライマックスで明かされる、「妻を殺した犯人に復讐をしようとしていた行為そのものが妄想だったのか?」という点と「映画内でレナードが殺した男たちはみな、復讐すべき妻殺しの犯人ではなかった!」という2つの真相でしょう。これは、レナードの手により「冒頭で」殺されてしまうテディによって、その真相が明かされるわけですけど、ここにストーリーを着地させたことに、心底感心しましたよ。本当に、こんなトリッキーな脚本、よく考えたなと。

ただ思ったのは、レナードの視点に同化している我々には、レナードが真実だと思っていることそのものが、嘘なのか真実なのかを見分ける方法がない。 妻が殺害される事件そのものは本当に起こったことなのか? 彼はなぜ、そのような妄想を抱くハメに陥ったのか? 妻が死んでいないかもしれないなら、その妻はいったい今なにをやっているのか? レナード自身がわかっていないために、なにも説明されない。観客である我々は混乱の中、ほうり出される……そこが、監督の狙いであるにしても、なんとも居心地悪く、個人的にその点において-1点にしてしまった次第。

あとやはり気になったのが、基本的にレナードの視点で語られているから、彼の混乱と不安に感情移入しながらハラハラできるわけですけど、やはりその記憶障害の程度というものが、客観的に観ている我々にはわからない点。

観ている間、いくつも気になる疑問点が出てくるわ出てくるわ。

例えば、根本的なことを言えば、10分前に起きたことを覚えるために、メモ代わりにポラロイドを撮って、裏にメモするわけだけど、そのメモをとるという習慣をちゃんと覚えているというのはアリなのか? とか。

また、いつも上着のポケットの中にそのメモを入れているということも、なんで簡単に思い出すことができるのか、とか。 もちろん、刺青を掘るということもメモの一種だろうけど、刺青を掘っている最中に10分以上は経過するわけで、その間、「なんで刺青を掘らないといけないんだ!?」という違和感は感じないのかとか。刺青を掘ることそのものって、けっこう決意いるだろう。

また、そんな記憶障害の人間そのものが、簡単に外を出歩いていていいのか? とか、車を運転すること自体も危険だろう! とか。 またレナードのそういう記憶障害の症状じたいに「自覚」があるというのも、よくよく考えればおかしい気もするし。

まあ、そういうことを気にさせるというのも、すでに監督の術中にハマっているということなのかな……なんて、思ったりしてますが。 そういう意味で、すっかりヤラれてしまいましたわ。

最後に、まず思ったのはこの作品、西澤保彦というミステリ作家の『七回死んだ男』(講談社文庫)っていう傑作を彷彿とさせるんだけど、読んでない方にはなんのこっちゃわからないと思いますので、オススメしておきます、というだけに留めます。また「記憶の改竄」というテーマなら、同氏の『夏の夜会』(光文社カッパノベルス)という作品もあります。こちらもオススメ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)おーい粗茶[*] ミルテ[*] さいた[*]

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