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[コメント] ローレライ(2005/日)

潜水艦の話なのに、話がバラストを捨てすぎたかのように浅い。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 監督が樋口さんなので相変わらず特撮は見事だと思ったので特に言及はしない(自分にしては珍しい)が、問題なのは他の方が既に何遍も指摘している通り“人間ドラマの描き方”なのだ。

 自分が★5を与えた映画に『潜水艦イ−57降伏せず』という潜水艦映画がある。和平工作のため、重要な鍵を握る大使とその娘を無事にヨーロッパへ送り届けよ、という使命を与えられたイ−57を描いた傑作なのだが、この映画の尺は本作より24分も少ない108分なのだ。にもかかわらず、艦長の池部良や乗組員の三橋達也、乗員の久保明といった面々の苦悩は十分伝わっている上に、ラストのほんの僅かな字幕で戦争の虚無感を出すという演出は思わずジンときた記憶がある。そうでなければ5点など付けない。

 本作の128分という尺はそれと比べると十分過ぎるほど長いが、50年前と現代の映画事情を一概に比較は出来ない。例えば東宝の特撮監督・川北紘一氏の話によると、昔の怪獣映画では特撮シーンも20分程度だったそうだが、今ではその倍は必要だというのだ。それを踏まえた上で、話に付箋を付け、潜水艦乗組員や大本営の人々の枝葉末節に至るまできちんとしたドラマを描くことが出来るのだろうか?「主要人物さえ描けば…」というのでは、潜水艦という閉鎖された空間で人間ドラマを描く意味が無くなってしまうだろう。

 この映画、最初の30分だけ観た時はえらくテンションが高いまま進んでいたので「これは期待出来る!」と思っていたが、ローレライ・システムの正体が分かったあたりから急激にトーンダウンしてしまう。その後も部分的に面白いところはあるが、やはり人物描写の突っ込みの甘さが気に掛かってしょうがなかった。まあ単行本何冊分という内容の話を、上手いことやって2時間ちょっとに収めるのも酷な作業だ。これだけの尺で戦闘シーンは、もう十分過ぎるほど描いている(と思う)。だからこそ、ドラマ部分をほんの10分でもいいから増やしてほしかった。それだけの猶予を与えても駄目だったら諦めが付く。結論を出すにはまだ早い。とはいえ、樋口監督の次回作が『日本沈没』というのは……これこそ、人間ドラマが出来てなくてはなおさら成立しない映画だ。何か、やたらとテーマが深い作品ばっかりお鉢が回ってきてるな、樋口さんは。

 で、観終えた後に気が付いた。2005年は福井晴敏が関わった作品が3本もあるわけなんだが、やれ東京に原爆を落とさせようとしたり、歴史そのものを変えようとしたり、イージス艦乗っ取って日本にミサイル打ち込もうとするとか、そんな話ばっかりだ。

 ……福井さん、あなたの足元にはドジョウが何匹いるんですか?

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)おーい粗茶[*] アルシュ[*]

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