コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 続拝啓天皇陛下様(1964/日)

昨日、平成天皇がサイパンに慰霊に訪れた。その際、「天皇陛下万歳!」と叫ぶ声が・・(平成17年6月29日)
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







これはちょっとばかしデリカシーが足りないなぁと感じた。あのバンザイクリフやビーチでは確かに「天皇陛下万歳!」と叫びながら死んでいった者たちがいた。そこへ昭和天皇の息子である平成天皇が行幸したのである。父の名を叫びながら幾多もの日本人が死んでいった地でいったい何を想うのか・・・

国内ではいささか定番となっているコノ言葉も玉砕の現場で聴かされるとは高濃度のブラックジョークとしても冷や汗が流れる。

*********************

さて本作であるが、前作同様に主人公は天涯孤独の身で、三度の飯が喰える軍隊が好きで好きでしょうがないという哀しい男である。当時の国民は皆、天皇の赤子であるという建前を文字通り信じ、天皇陛下を慕い敬う男でもある。

だが、プロットは前作と似てはいても、本作はソノ核となる「天皇陛下」との繋がりをまったく描いてはいなかった。タイトルとプロット・出演者こそ同じだが、これは似て非なる作品になった。

貧しい文盲の男でも、戦時中の天皇崇拝を単純に実行すれば、そこには安定した生活(軍隊ではあるが)が保障された時代。

対して価値観が様変わりした戦後では、時代遅れの妄信は一文の足しにもならずにボロを纏う貧困の暮らしが待っていた時代。

そう、前作では天皇陛下に対する愛着とも憎悪ともとれる当時の日本人の複雑な感情が見え隠れしていた。しかし、本作は肝心の「天皇の赤子」という繋がりが欠如している為に、前作が言外に匂わせていた「天皇の国民に対する責任」というバカでっかいテーマは何も無い。

単なる戦中戦後を逞しく生き抜いた男のプチ大河ドラマでしかなかった。

だから劇中、主人公が何度か口にする「天皇陛下」という言葉もとってつけたような記号のような意味しか持たず、ラストの「天皇陛下、こんな赤子もおりました・・・」という言葉に至っては、「この男の冴えない人生もまた天皇を父として慕ったが故の結末なのですよ」とでも言わんばかりに聞こえてしまうのだ。

それはまるでサイパンの地で平成天皇を歓迎する適当な言葉として「天皇陛下万歳!」という記号を選んだ馬鹿な奴と同次元ではないかと考えてしまうです。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)浅草12階の幽霊 TOMIMORI[*] 山本美容室[*] 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。