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[コメント] 下町の太陽(1963/日)

なるほど、道夫(早川保)の訳知り顔の分別臭さと良介(勝呂誉)の素朴で純情なひたむきさを併せると「男はつらいよ」の博(前田吟)。町子(倍賞千恵子)に心配をかけ通しの弟に、後年の車寅次郎がだぶる。すると、やはり町子は、さくらの原型。
ぽんしゅう

山田洋次の描くヒロインは、いつも男に対して煮えきらない。恋愛に醒めているわけではないのだが、自分から男に対して、はっきりとした恋情を告げるのをあまり見たことがない。たいてい、男に選ばれる側にいて、言い寄られ、まんざらではなさそうなのだが、いまひとつどうしたいのか分からない女が多い。

確か、「男はつらいよ」のさくら(倍賞千恵子)もまた、博(前田吟)の生真面目な一途さに押し切られるように結婚を決めていた。そして、贅沢な生活ぶりは望めないが、さしたる大過もなく順調な結婚生活を送る。まさに平凡を絵に描いたような人生。その行き着く先は、きっと団子屋のおばちゃん(三崎千恵子)なのだろう。浦山桐郎今村昌平増村保造の映画にはまず登場しない女だ。

良くも悪くも、山田洋次の考える「幸福」は平凡さのなかに存在するのだ。だから、山田の映画では、市井の生活者たちと、流浪の旅を続ける男や知的ハンディを持つ者が同じステージに混在し、彼らにとっての平凡さとは何かが語られ続けているのだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] りかちゅ[*] TOMIMORI[*]

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