[コメント] その夜の妻(1930/日)
なめらかな美しさを湛えた、現存する小津作品の中では最初の傑作。小津はこの時点ですでに世界最高の映画作家と呼ばれるに足るポテンシャルを見せている。
巡査の足を追う冒頭のトラッキングショットからもう神懸っている、とまで云ってしまったらさすがに贔屓目が過ぎるだろうが、前後左右のトラッキングのほかにもパン、ティルトが尋常でないなめらかさを持ったものとして駆使されている。カッティング・イン・アクションもすでに当然のごとく完璧。
しかし、ここで重要なのは、それらが単に技術の巧みさを誇示するものとしてではなく、物語=サスペンスに奉仕するものとして用いられていることである。それは総体としての「映画」さえも破壊してしまいかねない凶暴性を秘めた後期小津的「過剰」ではないが、果たして映画とはこれほど美しい必要があるのだろうかという疑問を抱かせるという意味で、やはり「過剰」だ。
また、岡田時彦が演じる警官からの逃走劇はバスター・キートンを彷彿とさせつつも悲愴感が漂っていて、印象深い。そして何と云っても忘れられないのが八雲恵美子。二丁拳銃を構えた和装の八雲のまなざしの強度は原節子に次ぐ。
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