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[コメント] 情婦(1957/米)

映画にとって何が大切なのかという事がものすごくよく分かる。
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







結末のどんでん返しは正直なところ、そんなに興味ない。個人的に"驚きの結末"というものに、映画的感動をあまり感じないからかも知れませんが。だからこの作品の結末も、取り立てて驚きはしなかったし(何かある、何かある、と構えていたせいも当然あると思いますが)、そこに面白みを感じませんでした。

むしろその作りの丁寧さ、誠実さ、またはユーモア溢れる遊び心にこそ、この作品の面白みが隠されているように思いました。恋に落ちる瞬間を「天井が落ちてきた」という比喩で表現したのかと思えば、本当に天井が落ちてきたり、"錠剤を並べて遊ぶ弁護士"を用いて時間の経過を表現してみたり、単調な笑いにとどまらないユーモアに満ちていると思いました。チャールズ・ロートンに至っては、その風貌からしてすでにユーモア且つキュートな匂いを発していますよね。

また、ココアとブランデーを摩り替えて飲むとか、隠れて葉巻を吸うとかいう不良的描写を多く取り入れ、鑑賞者(少なくとも私)に胡散臭さを植えつけておいて、でも実は意外にも仕事に対しては真面目で誠実であるという裏切り表現が徐々に効いてくる。そしてそれは大どんでん返しを用意したラストで爆発します。私たち鑑賞者と共に、むしろそれ以上に彼を信用していない看護婦の存在。あの犬猿の仲だった二人が打ち解ける様子、そしてその表現方法の心憎さ!こんな丁寧で、誠実で、ユーモアに富んだ作品には、むしろ衝撃の結末が邪魔に感じるくらい。

"衝撃の結末"は奇を衒えばいいってもんじゃないって事がよく分かる。人の目ばかり気にして作っているような最近の作品にはない、制作者側の、妥協はせずに、まず自分たちが納得の上で、そして楽しんで、真摯に作品を作るこの姿勢。この姿勢こそが評価されて然るべきものなのだと私は思います。

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09.10.21記(09.10.20DVD鑑賞)

(評価:★5)

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