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[コメント] フィフス・エレメント(1997/米=仏)

名作へのオマージュを騙った即席料理。
kiona

 荒唐無稽な話に普段SFなんか見ないような連中まで巻き込むべく、仕掛けが随所に施されている。アイデアのほとんどは既存の作品からのパクリなんだが、随分勝手に料理してしまうものだと感心して見ていられる。

 ただし、この作品はそれだけだ。名作のおいしい部分をかすめ取って詰め合わせた即席料理だ。

 何が決定的に不足しているか?

 キャラクターへの思い入れが見えない。名作と謳われてきたSFにしろ特撮にしろ、製作者は空想の産物に信念を託してきた。産み出す親として、それこそ惨めに駆逐される醜い怪物にも愛情を注いでいた。

 この映画は、キャラクター達に微塵の愛情も注いでいない。あの敵方の無惨に殺されるエイリアン達を見れば解る。愛情なき製作者により、憎まれ殺されるためだけに産み落とされた彼ら。だが、彼らの不幸は憎まれることじゃない。彼らの不幸は憎まれさえしないことだ。誰から? 観客からだ。ヒールにはヒールの面目躍如がある。観客により憎まれるために産み落とされるキャラクター達は、その通り憎まれるべく、作家は全力描くべきなのだ。

 この映画は、そんな努力をまるでしていない。ただの薄気味悪い奴らにしか見せない、それ以下でもそれ以上でもない演出。敵方ばかりではない。味方が殺されたって何の感慨も湧かないし、そのことへの怒りを演出するはずのシーンがいつの間にか別の何かのパロディーになっていたりする。

 キャラクターへの愛情がなく、空想世界への願望もない、とっくに卒業してしまったオッサンの手によるからこそできたお手軽料理。あのラストは何だ? 呆れるほど稚拙な勧善懲悪が、これまた即席の戦争批判を持ち出しやがる。

 コンピューターでキノコ雲見たって、何も感じやしない。だからこそ、その恐ろしさを伝えるべく、作家は架空の文脈を捻りだし、特撮班はキノコ雲の再現に苦心する。それがSFであり、特撮だ。

 よくもこんなもん作りやがって、腹切れ、はらぁっ!

(評価:★1)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus tredair[*] ジャイアント白田[*] 水那岐

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