[コメント] 東京兄妹(1994/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
小津安二郎へのオマージュというのなら、このような題名でもいいのでは。(←もちろん元は『秋刀魚の味』。★5の傑作です)
しかし実際のところ、個人的には緒方直人が豆腐を食べるシーンに色々と思うところがあった。
もともと豆腐は遣唐使の時代に僧侶が仏教とともに持ち帰ったものだと言われており、大昔の文献には「唐府」とも記されていたものでもある。当時はもとより鎌倉の時代までは貴族が食べる高級な食べ物であったという記録も残っている。そんな豆腐が庶民の物となったのは江戸時代であり、それを庶民の物としていったのは江戸の人々である。そう、豆腐はまさに江戸っ子の食べ物でもあったわけで、今でも東京に美味い豆腐屋が多いという事実も大いにうなずけるところである。
そのように考えていくと、この少し懐かしい東京を描いた映画を象徴する食べ物として豆腐が選ばれているのは何ら不思議なことではないのだ。そしてまたそこに豆腐が出てくるだけでどこか懐かしさが漂う東京が出現するというのも、これもまた当然のこととも言えることなのだ。
彼ら兄妹は、すでに両親に先立たれた身である。そんな彼らは現実の寂しさ、厳しさに耐えながらも、古き良き家族との生活を懐かしむかのように現代を生きている。そんな彼らの生活の様を象徴する物も豆腐である。古き良き伝統を受け継ぎながら、いつまでも変わらぬ味を保ち続け、常に庶民の目線の先にある豆腐なのである。
ラストは緒方直人が新しい一歩を踏み出すであろうことを示すシーンと読み取れる。おそらくそれは彼にとっては余程の決心であったのだろう。
長く慣れ親しみ、これだと決めた豆腐を代えるなんてことがそんなに容易くできることではないことを誰よりもよくわかっているのは、ほかでもない彼自身なのだから。
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