足で稼ぐ。やっぱり国土の狭い日本も韓国同様、足で稼ぐということは説得力が格段に違う。『砂の器』にココロを動かされた国民ならそれはわかっているはずなのに、昨今の日本製刑事映画は軽佻浮薄に走っている。

確かに映画版『踊る大捜査線』は面白かった。しかし、あれが我々の本当に望んでいる刑事物と違うことはわかっている。絵空事を楽しんでいるだけなのだ。今思えば大捜査線の刑事達も事件が現場で起こっていることは知りつつも、文字通り足が地に着いているシーンはとても少ない。面白いけど説得力が弱いのだ。

韓国は「日本より１０年遅れている」と言われた。確かに映画で観る限り、８０年代だとうたうあの風景は日本の７０年代である。ところが９０年以降の韓国の急速な発展ぶりは周知のとおりだし、特に映画界の元気の良さは現在の邦画では太刀打ちできない。 資金力か？いや、この作品を観れば資金力ではないことはわかる。

昨今の情報網を考えればハイテクを作品の中に盛り込むのは当然。しかし、そういった机上の展開より地道な捜査のほうが心に響くのは何故だろう。きっとそれはすべての事件の根幹は人と人との関わりによって起きているからではないか。人が犯罪を犯し、人が泣き、人が怒る。現代ではいかにも遠回りな道程かも知れない。でも、様々な感情の坩堝を掬い上げるのはやはり人であってほしいという甘い願望がどこかにあるのだ。

いい作品に出会えた。実はちょっとサワリだけ、と思って観たのだ。それがあっという間の２時間強。後味はいいものではないが、充実感は得た。こんな傑作に岩代太郎という日本人が音楽で関わっているのも嬉しい。