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[コメント] 真珠の耳飾りの少女(2003/英=ルクセンブルク)

光の自由自在な操り方は明暗のコントラストを際立たせて鮮やかな色彩を浮かび上がらせ、微妙に歪んだ遠近法は画面の隅の静物の細かい質感まで描き出す。ほんとうに美しい。
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フェルメールの同名の絵に関するお話を映画化したもの。そういうのはだいたいつまんない美術紀行みたいなものになりがちだけど、この映画はそうじゃないですね。フェルメールの絵の世界を見事に再現してしまってる。光の自由自在な操り方は明暗のコントラストを際立たせて鮮やかな色彩を浮かび上がらせ、微妙に歪んだ遠近法は画面の隅の静物の細かい質感まで描き出す。ほんとうに美しい。ここまでやるとはたいしたものだが、もともとが彼はカメラオブスキュラの人だから、案外映像化とは相性がいいのかもしれない。

観たときにはあまりにもフェルメールの絵そのまんまのカットが多すぎるような気がして多少うんざりするところがあったのだけど、あとからよく考えてみたら、フェルメールの絵のまま、というカットは意外なほどに少ない。彼の絵自体きわめて数が少ないんだから当たり前といえば当たり前だが、にもかかわらずそういう印象を与えるということは、それだけフェルメールの世界の忠実な映像化に成功しているということなんだろう。欲をいえば室内画ばかりではなく「デルフトの眺望」などまで取り込んでくれてたらいいのだけど、さすがにそれは至難の業なのかな。CGで作ったりしてもあんまり風情ないしね。

主演のスカーレット・ヨハンソンも、ずいぶんキレイ。始終困ってるような表情がなんともいえない。ピアスの穴をあけるためにフェルメールが彼女の耳を千枚通しで刺し、それで大粒の涙を流すシーンなんて、嗜虐的でゾクゾクしちゃう。

でも、実際の絵の「真珠の耳飾りの少女」は、困惑と幸福の入り混じったえもいわれぬ表情が魅力なのだが、ヨハンソンの表情はあまりに困惑のほうを強くしすぎているような印象で、そのへんに少し違和感がないでもない。といってもまあ、そんなことはたいしたことでもないか。あとは、アップで写される唇のエロチシズムとか、メイド萌え(きゃ)とか、そんなこんなで、小品であるけれどなかなかに見所のある美しい映画なのでした。

(評価:★5)

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