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[コメント] 怒りの葡萄(1940/米)

恐るべき「自動車」の映画であり、「土地」についての映画。すなわちロード・ムーヴィ。これほど文字通り生死を賭けたロード・ムーヴィは他にないかもしれない。グレッグ・トーランドの操る光と影を借りて、フォードは圧倒的な絶望と一片の希望を込めてそれを描く。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まず讃えられるべきは撮影と美術だ。この映画は貧農の苦しみや家族愛、人間の誇りを尋常ではない高さのボルテージで語るが、それは傑出した撮影と美術によって支えられている。序盤、家に突っ込むキャタピラを呆然と眺める住人のショットは、彼らの影を経由するパンニングによってあっという間に残骸になった家を映し出す。涙する暇も与えないこの容赦のなさ。

終盤のヘンリー・フォンダと母ジェーン・ダーウェルの別れのシーン。息子の身を案じるダーウェルに向かって、フォンダは自身の遍在について説きだす。その言葉が母親に対する単なる気休めのものというより、何やら宇宙論的な真理のごとき響きを帯びたものとして語られ、しかもそれが不可思議な説得力さえも持っているのは、(ナイーヴなことを云うようですが)この映画が人間の魂の本質のようなものに触れているからではないだろうか。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)モノリス砥石 緑雨[*] junojuna[*] づん[*] けにろん[*]

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