[コメント] 深呼吸の必要(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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大森南朋演ずる田所サンが恐くて恐くてどうしようもなかった。自分のアルバイト時代を思い出すに、田所サンみたいな人はどの現場にも必ず、本当に必ずいたもんで、この映画の序盤の彼の一挙手一投足がもう我が胸をかきむしるのなんのって。
今もって思うと、当時漠然と感じていたこの手のバイト長の恐さというのは、その無神経さなのだ。無神経なくせに現場では圧倒的な説得力を持ってるもんだから、危ういバランスで成り立ってる現場の人間関係が、彼のたった一言でブチ壊されてしまうという恐さ。みんな初対面同士だから、いっぺん人間関係が壊れると取り返しがつかない「気まずさ」に包み込まれることになる。それでも作業だけはしなくちゃいけないし、彼の手も借りなきゃいけないし、お互い助け合わなきゃどうしようもない。もう「気まずさ地獄」とでも言うべき苦痛の日々が始まることになるのだ。
そうなると、実際フリーターの集まるバイト現場というのはみんな口先で罵り合うばっかりで、空中分解して誰も口を利かなくなるか、誰かが誰かをブン殴るのが世の常なのだ。
この映画の中では軽薄な(いい意味で)女のコが「なんで威張ってんの?」と、その違和感を口に出してくれるし、ついに彼の生き様を糾弾した若者が「甲子園のノーノー投手」という強靭なバックボーンを持っていたし、医者や看護婦という説得力を持った「その道のプロ」がいたから歯車を噛み合わせることができた。これは地方バイトの現実を知る者にとっては、ほとんど奇跡と言ってもいいくらい胸のすく展開だったんじゃないだろうか。
キビ刈り隊の面々を眺めて「今年は当たり年ね」と言った運送のおっちゃんの言葉は重い。そして、そんなどこの馬の骨とも知れないガキどもに収入の丸々を託さなくてはならない過疎地の農家の生活はとても厳しいし、だからこそ、私たちに「ありがとうね」「なんくるないさ」と言ってくれるおじいとおばあの優しさは、心の奥深くに染み入ってやまない。
『深呼吸の必要』、とても大切なことをたくさん思い出させてくれる映画だった。そしてこれから、私はこの映画のことを何度でも思い出すよ。スタッフキャストのみなさんに、いい映画を作ってくれてありがとう、と言いたい。
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