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[コメント] フィールド・オブ・ドリームス(1989/米)

くだんの八百長事件にしても『エイトメン・アウト』を通じてしか知らぬような、野球に対して何の思い入れも持たない私でもこの最大級のいいかげんさには感動を禁じえない。「映画」の物語に合理的な辻褄は積極的に不要なのだ。絵に描いたような御都合主義を信じ抜く態度、その本気ぶりが心を打つのだ。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







“If you build it, he will come”が意味するものを幻覚一発で明らかにしてしまう経済性。果たして事態の異常を理解しているのかいないのか、どこかぼんやりした顔つきで出現して野球を始める選手たちのさも当然そうな振舞い。執拗に農場の売却を迫る「悪役」たる義弟が、選手たちを視認できた途端に態度を翻してしまうこと(「選手が見えたって関係あるかい。農場売却せにゃならんのとは話が別じゃ」という現実性の介入する余地がないこと)。その他諸々の非現実性を映画があっさりと、力強く受け容れてしまういいかげんさが感動的だ。とりわけ、夫の無茶に反対するどころかむしろ嬉々として加担する奥さん、というエイミー・マディガンの造型。それは映画における「妻」として、私にとってのある種の理想だ。『文化生活一週間』のシビル・シーリー。『赤ちゃん泥棒』のホリー・ハンター。あるいは夫の執筆にノリノリな『江分利満氏の優雅な生活』の新珠三千代や全財産を賭けた球投げを許容してしまう『イン・アメリカ 三つの小さな願いごと』のサマンサ・モートンなどもその系譜に連ねてよいかもしれない。彼女たちの笑顔や覚悟を決めた顔に私はいつも魅了される。『フィールド・オブ・ドリームス』の幸せも多くがマディガンの笑顔に拠っている。

ケヴィン・コスナーだってむやみに馬鹿にしてはいけない。少なくとも彼の声のよさを否定することは難しいのではないか。冒頭のナレーションの時点ですでに涙ぐんでしまったことを、恥かしながら私はここに告白する。

(評価:★4)

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