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[コメント] 華氏911(2004/米)

で、アメリカは一体どこへ行く?
Pino☆

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この映画はイラク戦争に対しての1つの観方であって、本質ではない。

 ブッシュ家とラディン一族が、石油利権によってつながっていて、911事件はラディン一族やサウジ王室が関与していたにも関わらず、それを当局は隠し、愛国的な米国民の目を逸らす為に、911事件に結びつけて、イラク戦争を始めた。イラク戦争の真の目的はブッシュ家伝統の石油利権であるというのが大体のあらすじだ。

 しかしながら、ジョージ・W・ブッシュがイラク戦争に突入した背後には、イスラエルやネオコンの存在があったとされているし、アメリカ経済は双子の赤字(経常赤字と貿易赤字)に苦しみ、ドル暴落寸前の危機状態にあったという経済的理由もあったとされている(戦争はそれを覆い隠す格好の材料になったし、軍事費を増大させて軍需産業に便益を図る格好の理由となった)。いづれにせよ、イラク戦争の背景には、色々な要素が複雑に絡みあっていたはずなのである。にも関わらず、この映画は、石油利権のためにブッシュがイラク戦争を引き起こしたと簡単に結論付けてしまっている。この考察は、分かり易いが、少し危険である様にも感じた。

 もし、イラク戦争に至るまでの過程を、アメリカ経済やイスラエルやネオコンの存在を交えて描いたら、もっと別の根の深い問題が見えて来るはずである。「ブッシュが悪い」というだけで片付けてしまっては、アメリカが抱える問題の本質は見えてこない。そういった点で、この映画は前作の『ボウリング・フォー・コロンバイン』よりも説得性に弱さを感じた。所詮は大統領戦に向けたネガティブ・キャンペーンの一部にすぎなかったのではないだろうか?(←それが悪いことだとは思わないが)

 とは言え、理解し難い戦争の正当性に、簡単に人々が賛同し、罪の無い多くの人々が戦火にまみれ、憎しみを生み、次々と命を落としていく光景には、胸が痛み、TVのニュース報道などでは絶対に見れない目を覆う様なシーンの連打には、戦争を操る人達の陰に、どれだけ多くの人が悲劇があるのかということを改めて思い知らされた。「非戦」を訴えるマイケル・ムーアの情熱には心を動かされたし、この行動には多いに賛同したいと思った。

 結果的に、この映画の意図に反して、2004年の大統領戦では用意周到な作戦で、ブッシュが再選し、民主党のケリーは惨敗した。しかし、ブッシュのシナリオは予定通りに進んでいるとは言い難い。

 その後、2005年現在まで、イラク戦争は益々泥沼化し、イラク戦費が嵩んだアメリカ政府の財政赤字は危機的状態に陥っている。国内経済は依然として双子の赤字に苦しみ、またしてもドル暴落の一歩手前まできている。愛国という名の元に自由は奪われ、失業者は増すばかり。中国は台頭し、北朝鮮は言うことを聞かない。 アメリカの存在意義って一体何なのだろう?

 さて問題は、これからアメリカは一体どこに向かって進んでいくのか?だ。マイケル・ムーアは何も語らなかったが、矛盾に満ちたアメリカ社会は、もう誰にも変えられないということなのかもしれない。

 憧れの国、自由の国アメリカが虚像だったとは思いたくは無い。イラク戦勝利を叫ぶブッシュのシーンで流れたアメリカン・ヒーローのテーマ曲だけが空しく耳に残った。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)おーい粗茶[*] 荒馬大介[*] Myurakz[*]

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