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[コメント] 原爆の子(1952/日)

原爆投下からたった7年、瓦礫とスラムの残る広島ロケはほとんどドキュメンタリーで圧倒される。終戦後に素早く生活を立て直せた者と、ピカ喰らって苦しみ続ける極貧の者とが市井に混在した時代。
ペンクロフ

劇中現在の乙羽信子は瀬戸内海に浮かぶ島の小学校教師で、2年後の『二十四の瞳』のデコちゃんを連想した。戦後すぐの映画には、女優の輝きがなくてはならない。

原爆症でいつ死ぬかも判らぬ少女は教会の世話になっている。寝床の上には、十字架にかけられたキリスト像。しかしオイちょっと待ってくれ、原爆落とした連中もキリスト教徒なんだろ。自分が生まれる前の、想像を絶する酷すぎる出来事ゆえに、いまだに原爆を何やら天災のような感覚でつい捉えてしまうところが自分にはある。どんな顔をすればいいのか判らなくなる。なんだ、オレたちは原爆を全然消化できてないなと思う。

こんな映画なのに、宇野重吉はいい人でホッとさせてくれる。北林谷栄はこの頃からもうババア役やってる。船長役の殿山泰司はなんだかスケベったらしい。役者って、役を演じる以上に「役割を全うする者」なんだなと思う。役者やのう。

少年を島へ連れてゆくことになり、乙羽信子奈良岡朋子、少年の3人が原爆ドームの前を歩くカットが素晴らしかった。カメラは横移動で3人を捉える。3人が歩いてカメラが移動しても、背景の原爆ドームはドーンと画面中央に据えてあって動かない。生き残った人間には人生があり、時間の中で成長し老いてゆく。しかし起こってしまった悲劇は歴史の中で不動であって、永遠に消せはしない。歴史と人間の関係を、映像で表現しきっている。今作を象徴する見事なカットだと思った。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ジェリー[*] ぽんしゅう[*]

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