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[コメント] ミリオンダラー・ベイビー(2004/米)

自愛のこもった作為が嫌味な『グラン・トリノ』を予言していたSO-SOドラマ
junojuna

 作家=俳優で悲劇にあるにしてもヒーロー然とした佇まいがこの映画を素直に肯定できない胡散臭さを振りまいて微妙な作品である。ボクシングというモチーフの提示が観念的な深みを見せることなくややスポ根寄りの描写であるために、ラストシークェンスの尊厳死という重いテーマへの飛躍がどこか座りの悪い映画となってしまっている。イーストウッドが自らを被写体とする時、その映画はいつも気負いが充満しており、淀みないストーリーテリングの上手さがある分、晦渋を隠し切れないいかんともしがたい評価となる。そうした意味ではイーストウッドはやはり自らの存在感について、その与える印象についての自覚と責任を持ちえなければいけないだろう。特にここ近年のイーストウッド映画のイーストウッドはいつもマッチョな在り方で、テーマの深さを決定付ける葛藤と対峙する方法が常に主人公である自らが用意してしまう独り相撲であるために、よりドラマティックな構成がかえって浅薄な作劇と見え透いてしまう残念な結果となっている。葛藤の提示方法というものが作劇の技術であるならば、そのナルシシズムの表出はこうしたドラマであればなお自虐的に描いて欲しかった。大人しく。老兵の気張りほど滅入らせるものはない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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