[コメント] ブラザー・サン シスター・ムーン(1972/伊)
舞台演出家を経て映画監督になったゼフィレッリの良い面がうまく導き出された秀作である。
若き日の聖フランチェスコを演じたグラハム・フォークナーの演技には、その柔らかな表情とは裏腹に舞台劇を観ているような大仰さが感じられなくもないが、演じた役柄の性質もあってか、そこからはある種の格のようなものをも感じ取ることができたし、またそれは、クララを演じたジュディ・バウカーの自然で可憐な演技とうまい具合に調和していたように思う。さらにその格は、最後を締めた教皇役のアレック・ギネスの持つさすがの貫録ともうまくマッチして、あの対面のシーンは厳しさと優しさと緊張感に満ちた名場面であった。
またロケーションがピタリと決まった、美しさと厳しさが見事に表現された撮影や、ドノヴァンの歌を多用した音楽処理も素晴らしかったし、実際のところこの音楽処理が、前述のバウカーと同様に、ヘタをすれば硬くなり過ぎたであろうこの作品に非常に爽やかで穏やかな風を吹き込んでいたと思う。
しかし、それより何より私が驚いたのは、フランチェスコという聖人を決して誇張することなく、その苦悩と回心を真正面から捉え表現しようとしたゼフィレッリをはじめとする作り手側の真摯な態度がフィルムから滲み出ている点で、この志の高さの前にはズームレンズの多用などというやや過ぎた点も取るに足らないことのように思えてしまう。
そういう意味でこの作品が国境を越えて、特にベトナム戦争に疲れ切った当時のアメリカの若者の心の癒しとなり、絶大なる人気を得たというのもよくわかる気がするし、願わくば現代のこの日本でも、宗旨をこえて多くの人に観てもらえればとも思った。
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