[コメント] 亀は意外と速く泳ぐ(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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先日、タレントだか誰かだかが、自分の子供の頃にやった「パトロールごっこ」という遊びの話をしていたのを読んだか聞くかした。
「今日は何をして遊ぶか?」という中で出てきた企画で、「われわれはパトロール隊である、町の安全を守ろう」といって、各自担当エリアを自転車でパトロールするのだ。「それ何するんですか?」と聞き手がたずねると、そのタレントだか誰かが「いや、ただ自転車で町を走り回ってて「異常なし」とか言ってるだけなんです。よしよし今日も一日平和だとか言ってるだけなんです」とか、なんかそんな話で、私はとても共感したのだ。多分そんな遊びしたことあるな、と。(ずばりスパイごっこなんてのももちろんありで、私の世代の人は知っている人が多いだろうけど、「スパイ手帳(※)」なんておもちゃが大流行したし)。
もとい、パトロールで町の平和を守っている気になっていると、公園で遊んでいる自分より小さな子たち、夕方の買い物に行くおばさん、そんないつもの見慣れた、というより、いつも気にもしなかった景色が、パトロール隊員の目に、永遠の輝きをいつまでも失わないで欲しい、とかいうような、そんな感触を覚えさせてくれたのだ。
本作は、脱力系とかシュールとか、まあそんな感じの笑いに紛らせてはいるが、「気持ちの持ち方ひとつで世界は変わって見える」という、とてもポジティブなメッセージをうったえてくる。素晴らしい。
三木監督といえば「時効警察」なんかでもその脱力ネタに焦点があたることが多いわけだが、あのシリーズの演出は三木監督以外の人もたくさんやっていて、むしろその他の演出家たちがこぞって「俺なりの三木ワールド(のような)」のようなものを表現しようとして出来上がっていった所産なのだろう。こうして監督一人が一本の映画として撮りあげたものを見ると、テレビシリーズでは見えてこなかった叙情感が引き立ってきて、何だか切ない感じになってくる。そのことこそが三木監督の真髄なんじゃないかなどと思えてくるのだ。そしてその特長である小ネタの発想が、そうした感性を原点にしているのではないかと思うのだ。(これ『図鑑に載ってない虫』見てなおさらそう思ったのだ)
監督の小ネタの発想、「100段階段を30秒で駆けるといいことがある」とか「バネって音はしないのに「ぼょ〜ん」て鳴るよね」とか、子供の時の情感に通ずるものが多い。昼下がりの商店街に「南国ムードで疲れたあなたをお出迎え」なんてアナウンスが流れるさびしい感じとか、夜9時の緊急集合を待つまでの夕方のソワソワした感じなんて、子供の感受性そのものだと思う。
子供の素朴な疑問てやつ、といってもいいか。その感受性で大人のまま育つと「アーティチョーク買うおかあさんちのごはんってきっとふつうじゃないよね」とか「そのへんのラーメン屋って繁盛していないのに何十年も店やっているよな」「何で店でわざわざ作っているのにこんなありきたりの味で作るんだろう」とか、そういうセンスに通じてくるんだろう。
刑事ドラマで「おまえ、1年前の今日どこで何をしていた? ファミレスで食事をしてただと? それじゃその時何を食べたか言ってみろ!」なんて言うの見ると、俺は絶対覚えてないだろうな…とまでは、発想するが、それを「ウエィトレスが誰が注文したのか記憶しずらいメニューってあるのかな」のように転化できるのかが勝負なんだろうな。なんの勝負?
…それは「手羽先ナチス」なんていうのをついやってしまう大人になれるかなれないかの勝負っていうか。「オーザックを車で轢いたら、やっぱり最後はサクっというんだろうね」、とか言ってりゃ世界は変わるって。
※変装アイテムなど、スパイ活動(ごっこ)にあったらなあという願望をくすぐるツボを心得たガジェット玩具。(興味のある方は「サンスタースパイ手帳」で検索してみて下さい)今と違って誰もが買ってもらえるわけでなく、それを持っている友達は羨望の眼で見つめられた。水に溶けてなくなってしまう紙でできたスパイ手帳は憧れで、当然それを持っているやつに、持っていない連中は実演をせがむのだが、「あんまりやると、なくなっちゃうからだめ」と断られる。それでも私は1回だけやらせてもらえて、何を書いたか忘れたが、何か暗号のようなものを自分で書いて、自分で水に溶かした記憶がある。だんだん溶けていくそれを見てしつこくお願いした友達になんだか悪い気がした覚えがある。
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