[コメント] スクラップ・ヘブン(2005/日)
まだら模様の復讐心。つかの間の連帯しか持ち得ないその反抗心の温度差こそが、討つべき敵が世間というバリアの向うに散在し、面として捉えらえきれず、己の内なる苦悩として個的に抱え込まざるを得ない現代の若者たちの痛みなのだ。
貧困、封建、差別、イデオロギー、金権、公害。つい30年前の日本には、若者たちが復讐や反抗の標的とし得るそんな明確な対象が「面」として存在した。ある者たちは連帯を組んで敵に立ち向かい仲間との共通認識の中に充実を感じ、ある者は一人で敵に立ち向かう同世代の若者の姿に喝采し何もできない自分の溜飲を下げた。
かつての敵は世間という名のバリアの中に身を隠し、今はイジメ、暴力、過干渉、無干渉、そして職業難、階層格差といった「点」として現れては若者一人ひとりを個別に襲う。個々人の問題として内面に巣くった怒りや復讐心は、それぞれ温度差を持ち、かつての怒りのように共通の思いとして共鳴し合うことはない。
個別に溜め込まれた、まだら模様の復讐心。矮小な敵しか見えない苛立ちが、この世を一度、終わらせてしまいたいという願望に飛躍することは想像に難くない。現代の苛立ちを真摯に捉えようと試みる李相日監督の誠実な意欲は高い評価に値する。
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