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[コメント] ALWAYS 三丁目の夕日(2005/日)

本当に懐かしいのは昭和の風景ではなく、多分誰もが持っている子供の頃の記憶。押入れの隅で役目を終えて埃をかぶっている、ちっぽけなかつての宝物(ガラクタ)たちとの再会。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最新技術で再現された風景そのものよりも、画像のコーティング処理(なのかな?)に懐かしさを覚えました。あの質感は、黄ばんで鮮明さを失った、幼少時代の写真のそれでした。

100円を握り締めてお店に走って、買えるものを必死で考えたり、手に入らない未知のものに夢を膨らませたりした遠い昔。今、ある程度のものは手に入るようになってふと立ち止まって振り返る時、何であんなものを大切にしていたんだろうと驚く反面、何で大切ではなくなってしまったのだろう、とも思ったり。本当の豊かさとは、あらゆるモノにどれだけ価値を吹き込めるか、なのかもしれない。価値に絶対的な基準なんて本当はない。価値は使う人それぞれが決めるもの。大きなものでもちっぽけなものでも、具体的なものでも目に見えない心の問題でも。

でも人は絶えず進化(いや、変化か)をする。この映画もそのこと自体は否定してない。思うのは、新しくなることで何かを失うというよりも、人は自らの手で何かを捨て去りながら新しくなっていくもんじゃないのかなぁ、と。捨て去り方があまりに無邪気なので、どんなものを捨てたかなんて意識がない、というのか(氷屋のエピソードがそんな感じでした)。人は一生の間で気の遠くなるほど沢山のモノを捨て続ける。きっとそれは、人間関係も例外じゃない。どれだけ多くの人とその繋がりを無邪気に捨ててきたことだろう。

でも、それは多分言うほど悪いことじゃないんです。捨てては捨てを繰り返し、それでもずっと心の片隅で残り続けるものがある限りは。この映画は、その残り続けているからこそ忘れないで欲しいもの、それが描かれたおとぎ話なんだと思います。変化、進歩の象徴の東京タワーの完成を、静かに、変わらぬ優しさで照らす夕日。変わらずに生きることができない生き物だと知っているからこそ、夕日は肯定も否定もしないのです。

この映画で描かれる大切なものを一言で言えば、「慈しみ」ではないでしょうか。ささやかなことをどれだけ慈しめるかによって、人の豊かさというのは決まるのかもしれませんね。簡単なようでとても難しいことだとは思いますが。

追記:一つ文句を言いたいのが、あまりに単調なフェイドアウトのつなぎ。もうテレビ放映用にどっからでもCM入れられそう(というか実際入るのかと何度も錯覚したよ)。

(2006/11/26)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)Orpheus 不眠狂四郎 さいた 水那岐[*] 荒馬大介[*] ぽんしゅう[*]

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