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[コメント] あらしのよるに(2005/日)

飛び込め!
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







雪山で自分の体力の限界を悟ったメイがガブにわが身を捧げようとする――ここで二人の感情曲線はピークを迎える。何故なら、共存しえぬ両者がふるさとを追い出されてまで二人で生きることを選び、帰り道を絶たれ、ユートピアを求めて旅をする。だが、どこへ行こうと、どんなに愛し合おうと、絶対的に互いを満たしえぬ間柄であることを絶対的に返上できない以上、これは心中に他ならず、あの場面は今生の別れに他ならなかった。それが現実というものだ。そして実際には、二人の命はあそこで終わっていたのではないか?

確かに物語はあの場面の後も続いた。終わらしめなかったことによってガブの決意と献身をなし崩しにした雪崩によって。置き去りにされたメイは黄泉の波打ち際より目覚め、ガブを求めて彷徨い、楽園に辿り着く。だが、そこをゆくメイの足取りはあい変わらず重く、そしてメイを包んでいるはずの春は、時折り雪山に、冬にフラッシュバックする。そう、メイは雪山を行きながら、楽園を行く幻想を見ていたのではないか? とすれば、楽園はあの世か、来世か。生を越えて想いを抱き続けたメイが、死に際して記憶を失ったガブに現(前)世を思い起こさせた、そんな風に見えた。

或いは、満たしえぬ者同士の燃えるような恋は、ヘテロも同性愛も等価に象徴しており、結果そういった議論を無化していたように思う。ただ、炎が死を想起させながら、それでも燃え上がり、その向こうにユートピアを夢見る、その省みない視線を素朴に賛美したいと、自分にはそう思えた。痛切な現実を冷徹に認識しながら、それでも輪廻の逢瀬を夢見る、そんな恋物語がこの上なく好きなのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)DSCH[*] づん[*] 映画っていいね[*] jean 水那岐[*]

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