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[コメント] ロード・オブ・ウォー 史上最強の武器商人と呼ばれた男(2005/仏=米)

父親が言ってた。「頭上には気をつけろよ」
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ユーリー・オルコフは実在した五人の武器商人をモデルにした(ミックスした)架空の人物で、エピソードのほとんどは実話に基づいているそうだ。ファンタジーとメタファーの界面を巧妙に綱渡りしてリアリティーを醸成してきたニコルの気質は、察するに監督よりも脚本家としてのそれが強く、演出はシーンも繋ぎも杓子定規で全体として骨張っているが、物語は核を見失わずに展開していく。また、一発の弾丸が工場で製造され、年端も行かない子供の額に突き刺さるまでを追ったオープニングは、純粋に架空のものを描くためではなく、何かを象徴するために使われているので、これ見よがしな安いCGが逆に効果を発揮している。個人的には、メタファーが先行したSFは鼻につくことが多いので、『ガタカ』も『シモーヌ』も敬遠してきたし、『トルーマン・ショー』など大っ嫌いだが、今回は暗喩ではなく直喩だったので、その手法に真摯に胸を打たれた。

特に、『トルーマン・ショー』で見られたクライマックスの仕掛け、前提として観客に提示しておいた世界観をひっくり返して見せる構造が、この映画ではテーマを背負い、核を成している。なかんずくエド・ハリスジム・キャリーの「見る者と見られる者の関係」が、今回の映画ではイーサン・ホークニコラス・ケイジの関係に置き換えられている。「追う者と追われる者の関係」、或いは「断罪する側と断罪される側」の関係として。クライマックス、取調室において、ジャック(ホーク)はユーリー(ケイジ)をついに捕らえ、完全に優位に立ったつもりでいた。これは我々観客にとっては、ようやく正義が悪に追いついた瞬間だった。だが、泣きを入れてくるはずの悪魔は恐れず、悪びれず、自分の優位を証明し、あまつさえ更なる巨悪の存在と、そしてその巨悪が我々自身の頭上にいることを啓示してきた。見上げた脚本である。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)FreeSize[*] みか[*] ina プロキオン14[*] 甘崎庵[*]

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