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[コメント] どん底(1957/日)

その演劇的演出との関連性から後期黒澤の諸作品へと繋がる、彼のフィルモグラフィを辿る上での重要作。
赤い戦車

扉を通して室内と屋外を徹底的に分けている。室内から屋外を映すカットは3回出てきたと思うが建物の壁に遮られていて何も見えない。木賃宿全体を見渡せる俯瞰ショットは一切なく、文字通り宿が「どん底」にあるような閉塞感。ひょっとして小津の影響もあるのか?(これに関しては蓮實重彦「監督 小津安二郎」を読んでもらえれば分かると思います)

また、逆に屋外から室内が明確に映されるのは根岸明美が土砂降りの雨の中に駆け出していき、藤原釜足が「あばよ」と呟くカットの一回のみ。ここでの藤原釜足の顔は何か胸騒ぎを覚えるような、実に不吉な表情をしている。改めて観ると実に決定的なカットであった事がよく分かる。

「室内」は彼らにとってぬるま湯のような居心地のよい世界であり、「屋外」は衆人に環視される(宿全体が「見下ろされる」窪地に存在していることにも注目だ)世間という名の絶望的な世界、ということなのだろうか。つまり藤原釜足は「屋外」から覗き込まれたため、あのような表情を浮かべたのではないか。

(評価:★4)

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