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[コメント] 影武者(1980/日)

初公開時以来の再見。あらためて見ると、流石に良く出来た画面の連続で、非常に面白かった。また、初見の時に、なぜあれほど嫌悪したのかもよく分かった。
ゑぎ

 まずはひとえに、多くの映画ファンを失望させた、ラストの長篠の合戦の描写が不快である、という点が、ありきたりだが大きい。死屍累々と、のたうつ人馬。特に馬ののたうつ様が、不快極まりない、と感じたのは今回も同じだ。ただし、この合戦の描写の中で、織田徳川連合軍の銃撃カットと、武田軍の騎馬や足軽の突撃カット、そしてオフの銃声に勝頼らのリアクションカットを繋いで、銃弾を受ける人馬のアクションを隠蔽してしまうカッティングについては、初見の時は、手抜きに思えて残念感しかなかったが、今見ると、とても斬新で面白いと感じたのだ。これは、映画の何を楽しむか、というプライオリティが当時と今では異なる、ということで、それは、かつて退屈あるいは陳腐と感じた前半部分についても度々反省しながら見た。

 というワケで、良いと思った部分を書いておきます。まず、ファーストカット。三人の髭男のロングショット、しかも固定のワンシーンワンカットがいいですね。仲代達矢山崎努が、兄弟で髭を触る相似の所作をするのもいい。こういう重厚な演出を楽しむかどうかは観客の志向性によるでしょう。あと、前半は江幡高志をはじめとする、三人の乱波(らっぱ・間者)の動きが面白い。彼らが、岩山の上や諏訪湖の畔の壊れかけた漁師小屋などから、信玄が生きているかどうかを確かめるというプロットにかなり尺をさかれているのだが、彼らを追うことで、良い画面を作っている部分が結構あると思う。あと、上杉謙信の春日山城の窓から見える雪もそうだし、勝頼のいる諏訪城から窓の向こうに諏訪湖の水面と山々が見える、という画面が素晴らしい。これは特筆に値する。そして、度々出てくる夕陽の逆光や、夕焼けの空をバックにした兵士のカット(多くはシルエットカット)の美しさ。ポストプロダクションのコンピュータ処理も多少は加わっているのだと思うが、今現在ほど技術が無かった時代に、これだけ美しい夕景を造型しているのは素直に感動する。

 それと、黒澤らしいマルチカメラの撮影は、私には2台カメラに見えた(3台以上使っているシーンは見当たらないと思えました)。屋内シーンにも頻出するが、仲代が諏訪湖の畔で、湖の水に浸かりながら、侍大将たちに、俺を使ってくれ、と懇願するシーンなどが顕著。考えると、本作初見の頃は、アクション繋ぎが、複数台カメラで行われているかどうかとか、カメラが何台使われているか、なんてことを推し量りながら映画を楽しむ、というような見方もしていなかったのだ。最後に、乗馬シーンの迫力も特記したい。隆大介演じる信長の駈歩(かけあし)での輪乗りシーンもだが、大滝秀治の荒々しい騎乗カットが、珍しさもあり驚かされた。

(評価:★4)

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