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[コメント] ロボコップ(1987/米)

傑作だと思う("ケッサク"ではない)。グロでマヌケな暴力の果てのセリフは、一縷の希望?

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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87年製作のこのアメリカ映画は、ヨーロッパ出身の監督が演出を担当していたとしても、少なくともその脚本に於いては全く当時の「アメリカ」の映画だ。そしてそれは凋落するアメリカであって、そこにあるのはそんなアメリカへのシニックな揶揄の視線だ。たとえば終幕に近い場面で悪漢が、アメリカの最後の良心をたとえグロテスクな形ではあっても身を以って示そうとするロボコップに向かって、ニホン語で「サヨナラ」と告げるのを見れば、これが当時その自信を喪失しつつあったアメリカによって自嘲的に描き出された物語であることはすぐに窺い知れる。それを一見してヒューマンなメロドラマではなくてブラックユーモアとして描き出せた知性は、この映画の価値を普遍的なものにしていると思うが、しかし恐らく今現在なら、それは全くメロドラマとして描き出されることになるのではないか。それだけ恐らく今現在のアメリカには余裕はない。それは知性の問題ではなくて、その基礎となる精神的土台が保全されているかいないかの問題だろう。

この映画のロボコップは、最後に人としての自己を回復しはする。しかしそれが希望で有り得るかどうかは疑わしい。人としての記憶と内面を抱きつつ、人ならざる自己の存在を生き(?)続けねばならないとは、フランケンシュタインの怪物を引き合いに出すまでもなく、地獄のような責め苦なのではあるまいか。無論その問いを宙吊りにすることを踏まえた上でのラストのセリフであって、それ故にそれもまたブラックユーモアなのだと解釈することも出来るが、それをユーモアとして受容する程に、今現在の私達は(恐らくは一般的アメリカ人も)幸福ではない。己の名を思い出したロボコップが、しかしそれでもロボコップでしか有り得ない現実が決して幸福ではないように。

ところで、これもまた今更論うのも頑是無いことではあるが、ロボコップは設定上「ロボ」のボディであるとしても、実際に中に入って(?)動かしているのは人間(役者)である。それ故にその動きには人間特有の動作の曖昧なズレやブレが生じることになる。このあたりは物語内の設定として余計に解釈しようとするとなかなか面白いところで、ロボコップが人間の体に依拠して造られねばならなかったことの意味をあちこちで考えさせてくれる。物語の中では明示的には一切語られないが、ロボコップには恐らく、警察官の任務の如き不規則な状況対応能力を要求される条件に於いて、機械的でない人間的な身体のフレキシビリティが必要とされたのではないか。また一方、時折挿入されるロボコップの主観映像も興味深く、それは視界の中に一つ一つの情報が明示的に表示されていく以上、情報と意識の間に僅かでも懸隔が存在するということで、一見合理的な様に見えてむしろ非合理な情報と意識の結合なのではないか。

無論これらの論点はほぼ完全に情報化(管理化)されているCG映像ではない、アナログな特殊効果撮影故に生じる“隙間”の論点でしかないかも知れないが、あるいはそんな“隙間”があることこそが、かつてのこの種の映画の存在意義を成していたのではないか、とも思うのだ。(この映画がその種の映画の末裔であることは、たとえば全くの機械である筈の敵役メカ「ED209」の造形やそのアクションなどにも見て取れる。)そしてこの映画のロボコップは、正にそんな“隙間”にこそ存在している。その証に、この映画のロボコップは“笑う”のだ。「ED209」のバカデカい図体をコブラ砲で吹き飛ばしたロボコップことマーフィは僅かに笑ったかのように見える。これこそCG映像なら有り得ない、曖昧微妙な“隙間”にロボコップというキャラクターが存在していることの証であって、更にはこの映画が、たとえばレイ・ハリーハウゼンといった伝説的な名前に連なる特殊効果映画の末裔であることの証でもある。

ロボコップことマーフィが笑ったかのように見えるシーンはもうひとつだけある。それは言わずと知れたラストシーンで、そこでの朗らかな人間的な「表情」あってこそ、観客である私達はこの物語に同調することも出来るわけだが、しかしそれは、繰り返し言えば決して本当の幸福を帰結しはしない。曖昧微妙なロボコップの笑顔は、幸福と絶望の狭間で宙吊りにされたままいつまでもそこにある、のではないか…。その笑顔を今見ると、何故かそんな気がして仕方ないのだった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)DSCH[*] モノリス砥石[*] Myrath

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