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[コメント] デルス・ウザーラ(1975/露)

「世界のクロサワ」という呼称はこの映画の為にある。あらゆる面で圧倒的な魅力を放つ最高傑作。人と人、人と自然の濃密な関係性、シベリアの赤心に、涙を禁じえなかった。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作者の名前が主人公と同じ、ということは伝記、かなり部分までが事実なのだろう、それぞれのエピソードにかなりの説得力が備わっていた。映画の神は細部に宿るというが、正にそれを地で行くような映画だ。あらゆる細部が、森の英雄デルス・ウザーラの魅力を増幅させる。

今回のクロサワの演出には、ひたすらひたすら頭が下がる。今までの罵詈雑言を全部なかったことにして欲しいほど、隙が無く、圧倒的だ、完璧だ。

何より最も印象的だったのが、人物の「座っている」ことの描写だ。シベリアの森の中を道連れと共に彷徨い続けるというある種、ロ−ドムービー的な性格を帯びたこの作品に於いて、執拗に撮り収められる「座っている人物群像」。ある時はロングショットで温かな団欒(*民謡が歌われる焚き木のシーンなど)を、ある時は近景と遠景の対比で臆病な孤独(*中国人のシーン)を、ある時は望遠観察的なショットで自然の峻厳さを(*アルセーニェフ、ウザーラと部下数名が凍った湖に舟を向けるシーン)、そして、ロードムービーたることを破棄した終盤では、老人の背中を追いかけて身を切るような哀切を、それぞれ表現している。映像的な美しさが、その時々の感情を助長していることは改めて云うまでも無い。

2時間半の長尺を開きさせないためのアクセント付けにも匠を感じる。冷徹なフィクス+望遠ショットの積み重ねで構成される凍った湖のシーンと、目の前で激しく良く動くカメラに躍動感と緊迫感を焼き付けた激流のシーンの対比は見事というしかない。これが映画だ!

(評価:★5)

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