[コメント] メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬(2005/米=仏)
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汲めども尽きぬ魅力にあふれた映画だ。トミー・リーが薬莢をつまみ上げる所作であるとかテレビのソープ・オペラの使い方であるとか細部の面白さには事欠かないのだが、まず何と云っても中盤以降種々の暴力を行使されつづけるばかりのバリー・ペッパーがそれを通じてなぜか「浄化」されていくという展開(蛇の毒から生還した後のペッパーの憑き物が落ちたような顔!)が抜群に面白い。そんなことが成立しているという事態自体がちょっとした奇跡だと云いたくなるのだが、荒野・砂漠・山といった途方もなく美しく過酷な風景がまさに暴力的にペッパーを浄化していくわけなのだから、この映画におけるメンゲスの貢献もまた計り知れない。
時間軸を交錯させた前半の構成もなかなか悪くない。フリオ・セザール・セディージョとジャニュアリー・ジョーンズの微笑まずにはいられないダンスシーンの直後にトミー・リーがセディージョの墓に佇むカットがやってくる、なんていうのは実に巧みだ。終盤にあらわになるセディージョをめぐる「謎」も映画らしい謎として私には快いし、知的な役柄ではないにもかかわらずどこか聡明さを感じさせるジャニュアリーの透明な美しさも忘れがたい。
ところで、散々な目に遭いつづけるペッパーを見て『バリーの災難』(“The Trouble with Barry”)なる句を思いついたとする。確かにくだらない思いつきだろう。しかし、セディージョの遺体のきわめてユニックな扱われ方を思えば、それを愚にもつかぬ駄洒落だと云って斥けてしまうこともまた躊躇われるはずだ。むろん、それ以外でこの映画とヒッチコックの具体的な共通項を挙げてみせるのは難しいのだが、ひたすら面白さを目指すここでのトミー・リーの態度はヒッチコックのそれと同様に「映画」の本道を行くものである、などと云っても決して云い過ぎではないだろう。
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